白い息(闇表)
明日は雪になるかもしれないって、天気予報で言っていた。
見上げる曇り空に白い息が消えていく。
ボクは光の向こうに還っていった綺麗な人を思う。
「もう一人のボク、雪だよ!」
降り始めた雪を『もう一人のボク』に見せてあげたくて、ボクは外に出た。
ボクだけに見える半透明な姿でボクの隣に立って、キミは空を見上げる。
「綺麗だな」
白い雪が空から舞ってくる様を見ながらキミが呟いた。
初めて見たかのようにそうやってずっと飽きずに眺めている。
その様子を見ながら訊いてみた。
「砂漠にも、雪は降るの?」
「いや。オレの覚えている限り無いな」
もう一人のボクは首を横に振ってボクを見た。
砂漠も夜は冷えるって聞いたけど、やっぱり雪にはならないのかな。
そんな事を考えていたら、もう一人のボクが言った。
「海の中にも、雪が降るって知っていたか、相棒?」
「海に?」
ボクは聞き返した。
「マリンスノーと言うそうだぜ」
何処でそんな話を聞いてきたのだろう。
テレビか、本か。
「プランクトンや、小さな魚の屍骸が海底に積もる様が、まるで雪のように見えるそうだ」
「・・屍骸なんだ」
「ああ」
もう一人のボクは頷いた。
「だが、とても綺麗だそうだぜ」
「必死に生き抜いて、悔いなく一生を終えたものは、そんな風に綺麗に見えるのかもしれないな」
そう言う彼の横顔に白い雪が舞う。
・・・綺麗に。
「もうウチへ入ろう」
ボクは言った。
この雪の中にキミを曝しておくのが嫌だった。
「風邪ひいちゃうよ」
そう言うと、ボクに風邪を引かせちゃ悪いと、優しいキミはあっさり家の中に入る事を同意してくれた。
綺麗なんかじゃなくて、いい。
綺麗じゃなくていいから、もっと生きることにしがみついてよ。
悔いがあるって言ってよ。
還りたくないって、言って。
白い息が空に消えていくのを見ながら
ボクは光の向こうに還っていった綺麗な人のことを思う。
END
この時期おセンチになります。
未だに「何で帰っちゃったの」って思ってる。
何故ってわかってるけど
思ってるのです。
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)
2006.02.19