幾つもの有難うを(闇表)
振り返らず、進め。
崩れた遺跡から目を離してボクは空を見上げた。
綺麗な、青。
眩しくて思わず目を細める。
もう一人のボクは光の中に還って行った。
自分で決めたことなのに、もう一人のボクを還してあげなきゃいけないってわかっていたのに、やっぱり失うのは辛くてまた涙が出そうになる。
胸ぽっかりと穴でも開いたような。
そんな表現がぴったりの、喪失感。
完成してからずっと首から下げていた千年パズルが無いせいだろうか。
結構重さがあったもんね。
背の低いボクがあんなごっついアクセサリを肌身離さず持っていたのだ。
よく考えるとすごく似合わなかっただろうな。
そう思うと何だか少し笑えた。
笑って、空から視線を移すと向こうに人影が見えた。
ボクはそれが誰なのか、すぐにわかった。
海馬くんだ。
もう一人のボクと海馬くんはライバル関係で、それは傍から見ていても特別な感じで。
だからどうしても海馬くんにも来てもらいたかった。
もう一人のボクを見送って欲しかった。
アメリカへ行ってしまった海馬くんに連絡がつかなくて、イシズさんに相談したらにっこり笑って任せてくださいって言われた。
イシズさん、連絡してくれたんだ。
「あれ、海馬じゃねぇか」
ボクの視線に気がついて城之内くんが言った。
「あんなところに居ないで入ってくりゃよかったのに」
まったくその通りだけど。
「でも来てくれただけでもスゴイよ」
海馬くんははっきりした人だから来ないとなったら絶対来ないだろう。
千年アイテムのことをオカルトグッズだの非ィ科学的だの散々言っていたし、全然認めてなかった。
その海馬くんが此処まで来てくれたんだから大変な進歩だ、と思う。
忙しいのにわざわざ来てくれたのが嬉しい。
知り合った頃の海馬くんなら絶対に来なかっただろう。
海馬くんはずいぶん変わったと思う。
ボクも以前と比べたら、やっぱり変わったんじゃないかな。
もう一人のボクはボクの強さはボクの内に最初から合ったと言ったけれど、そうだとしてもそれを外に出すきっかけをくれたのはキミだ。
背中を押してくれた。
変化の無い世界は居心地がいい。
ぬるま湯にゆっくり浸かって漂っているみたい。
だけど其処には風が吹かない。
水は滞り、やがて澱みを作る。
それじゃ駄目だ、とキミは言った。
次へ進むために還って行った。
だから、ボクも。
顔を上げて、前を見て
疲れたら休んだって構わないんだ。
だけど
振り返らず、進め。
いつかまたこの道が
キミと交差すると信じてる。
今はただキミに
たくさんの
ありがとうを。
END
2年たってようやく
少しだけ前向きな話が書けたように思います(^^ゞ
いつかまたきっと
遊戯ちゃんと闇様は会うことが出来るって
信じてる。
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)
2006.03.19