■緑が綺麗な(闇表)■

■十二ヶ月を巡るお題■

緑が綺麗な(闇表)











 


 

 

 

 



それはとても難しくて。

 

 

 



「いつの間にか緑が綺麗な季節になったね」
下校途中寄り道した公園で、ブランコを漕ぎながら遊戯が言った。
「ついこの間まで寒かったような気がするけどな」
ブランコの柱に寄りかかりながら城之内が答える。
「おーいい風ー」
「『風薫る五月』って言うからね」
こういうときの遊戯の言葉はたいてい祖父の受け売りだ。
遊戯だけに見える半透明な姿の<遊戯>が、隣でふんふんと鼻を鳴らす。
『よくわからないぜ』
「そう?」
大真面目に言う<遊戯>がなんだか可愛らしく思えて遊戯は笑った。
「何だか緑の爽やかな香りがするような気がしない?」
「お、<遊戯>か」
城之内は慣れたもので遊戯の独り言をさして気にする風でもなく、自分も<遊戯>が見えるかのように接してくれる。
「チョイ待て。緑の香りを味あわせたる」
城之内くんは公園に生えていた手近の葉をむしり取った。
「城之内くん?」
「こういう柔らかいヤツがいいんだ」
そう言って城之内は手に取った葉を唇に当てる。
その葉は思ったよりも高い音を立てた。
「草笛だね」
「おう。やってみ?」
遊戯も城之内に習って葉を捜す。
「柔らかそうなのがいいの?」
「後、薄い葉っぱのほうが音が出やすい気がするな」
城之内はさらに助言をくれた。
「まあそれと気合だな」
「気合が要るの」
気合、と言いながら城之内が猪木の真似をしたのに遊戯は笑う。
最初に城之内が手にした葉と同じような葉を見つけて唇に当ててみたがどうにも音が出ない。
「難しいね」
「気合が足らねぇな」
「よし!」
城之内の言葉に気合を入れ直してもう一度吹く。
しかしやはり音は出ない。
「やっぱ出ないよー、難しいー」
強く吹きすぎて何だか息が苦しい。
自分の手元を覗き込んでいる<遊戯>に遊戯は言った。
「<もう一人のボク>やってみる?ボクちょっと休憩ー」
くたびれた、と言うと<遊戯>はこくりと頷いた。
それを確認して意識を交代する。


長い指が緑の葉に触れる。
なんて綺麗なんだろう。


遊戯はその指先に魅せられる。


 

身体は自分のものだから変わりないはずなのに。
<遊戯>が意識の表側に出ているときにはまるで違うもののように感じる。

その指が草を唇に当てると、ぴゅーとキレイな音が出た。


「お、上手いな」
城之内がそう言って<遊戯>の頭をわしゃわしゃと無遠慮にかき混ぜる。
『やっぱり<もう一人のボク>は何でも出来るねぇ』
遊戯も称賛の声を上げた。
<遊戯>は照れたような、それでいて困ったような顔をして、笑った。
 

「何でも出来るなんて、そんなこと無いぜ」


そう言って<遊戯>は葉を持ったままの手を遊戯の方へ伸ばした。
今は半透明な、<遊戯>にしか見えない遊戯に向かって。


触れられない、綺麗な指先。

 

本当に望むことは出来ないのだと訴えたあの指先に
同じ思いを伝えるにはどうしたらよかったのだろう。

 

それを言葉で表すのは


 

とても難しくて。

 

 

 

END








思ってる事を言葉にして伝えるのって結構難しい、みたいな。
 
草笛ってどんな音が出るのかよく知りません(^^ゞ
すいません。
でもちょっとは調べたのですよ。いろんなのがあったけど(^^ゞ


 



 
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)



 

2006.05.14

 

 

 

>戻る