肉まんの話。
“心の中”に戻ってくると『相棒』は自分の部屋で、寝ていた。
「やれやれ」
のん気だな。
などとつぶやきながら中へ入る。
相棒の心の部屋の扉はいつでも開け放してある。
純真で邪気のない部屋。
持ち主の性格そのままだ。
比べて、自分の方は。
それが千年パズルによるものだったとしても。
相棒はちょっと体を丸めるようにして眠っていた。
<遊戯>はしゃがんで相棒の顔をのぞきこんだ。
ふわふわ、している。
なんだかそんな気がして、<遊戯>は寝ている相棒のほっぺたを指でつついてみた。
むにっって感じ。
そう思って、少し笑う。
柔らかくて弾力のある頬。
温かくて。
この感じどこかで・・・。
<遊戯>がソレがなんだったか思い出そうとしていると相棒が目をさました。
「・・・ごめんね、ぼく寝ちゃってた?」
体を起こしたものの、まだ少し眠そうに目をこすりながら言う。
「・・・何?」
まだ頬に触れたままの<遊戯>に小首を傾げるようにして問う。
ああわかった。思い出した。
「いや・・・肉まんみたいだな、と思って」
「なにそれ!」
ほっぺたに触って“肉まん”みたい、だなんて。
「ぼくそんな太ってないもん」
「・・・いやそういう意味じゃない」
太ってないことくらい<遊戯>だってわかってる。
なにしろ同じ身体を共有しているわけだし。
むしろ痩せすぎじゃないだろうか。
「じゃ、なに?」
そういって大きな目をくりくりさせて自分の返答を待っている相棒はカワイイ、と思う。
本人は小さい、とか可愛い、とか言われるのは嫌らしいので言わないけど。
同じカオなんだから可愛いもなにもほんとはあったもんじゃないんだけど。
それでもこのキモチは確かに相棒がくれたものなのだ。
「・・・この間初めて肉まん、食べたろ?」
「うん」
学校の帰りにコンビニで買い食いしたときの話だ。
めずらしく<遊戯>はそれに興味を示した。
相棒がおいしそうに食べているので気になったのかもしれない。
「なんだ、それ」
「肉まんだよ」
初めてだっけ?食べたことない?
その質問に<遊戯>がうなずくと、相棒は実にあっさりと“チェンジ”してくれたのだ。
おいしいよ、食べてみなよ。
そう言って。
初めての肉まんは温かくて・・・中は熱くておいしかった。
肉体は一緒なんだから消化してしまえば同じようなものなのに、それでも。
「あったかくて、嬉しかった、から」
「うん」
相棒の満面の笑みに自分の気持ちがちゃんと伝わったことを知る。
言葉で気持ちを伝えようとするとこんなにも難しい。
それでも。
心はこんなに近くにあるから。
<遊戯>は笑って相棒を抱き寄せた。
その目はイタズラを思いついた子供のような輝きを放っている。
「・・・ほんとに肉まんみたいにあったかくて、中熱くて、オイシイんだよな」
そう言って相棒の“肉まんみたいな”頬をぺろ、となめてやる。
「やだっ・・・。もうっ」
たとえ心の中だけでももっと近くに感じたいから。
このキモチを教えてくれたのはキミだから。
END
2000.08.24