■春先の変態その一(闇表)■

■十二ヶ月を巡るお題■

春先の変態その一(闇表)










 


 

 

 

 

春の暖かい日差しの中、遠回りして公園の桜の様子を見て帰ろうということになった。
花見の下見というわけだ。
桜のつぼみはまだ固く、今週末の花見は無理のようだった。
「でも菜の花は満開で綺麗だね」
「そうだな」
「もうすっかり春だねぇ」
そんな話をしながら公園を歩く。
「春と言えば」
城之内が言った。
「アレが出たんだってよ」
「え、幽霊とか?」
そういった類のものが大好きな獏良が嬉しそうに尋ねる。
反対にそういうモノが大嫌いな城之内はものすごい勢いで否定した。
「ちげーよっ!」
「何が出たんだよ」
その必死さが不憫に見えたのか本田が助け船のように先を促す。
城之内は言った。
「ヘンタイ」
「・・・ああ春だしな」
桜と違って特に見たくもない春の風物詩だ。
本田が遠い眼をする。
「オレのバイトしてるコンビニにサツが来て、注意のポスター貼らせてくれって店長に頼んでた」
「どうして春になるとああいう人って出てくるんだろうねぇ」
獏良がおっとりと言う。
「冬は冬眠でもしてるのかな」
蛙か熊かと同じような扱いらしい。
獏良の疑問に遊戯は少し考えて言った。
「冬はコート一枚じゃ寒いからじゃないかなぁ?」
「おいおい」
「え、ナニ、お前ら天然?」
「あはは!!」
力無く突っ込む本田と城之内の隣で御伽は笑い転げている。
ツボにハマったらしい。
「あー成程。寒いよな、確かに。すごいや二人とも」
えーそれほどでもー、などと謙遜してみせる獏良に本田が、褒めてねぇよ、と突っ込んだ。
そんな仲間の鼻先をひらり、と蝶が舞った。
「あ、蝶々」
菜の花に釣られてきたのだろうか。
「そう言えば蛹が蝶になるのも『変態』って言うんだよね」
御伽が言った。
其れを受けて本田が言う。
「ああ、完全変態って奴?」
「なんだそれ」
あまり勉強熱心では無い城之内の問いには御伽が答えた。
「蝶みたいに成長と共に体の仕組みとか形を変えてくヤツのことだよ」
「へええ」
城之内同様あまり勉強が得意では無い遊戯は尊敬の念を込めて御伽を見上げる。
御伽は苦笑して付け加えた。
「まあでもあんまり使わないよね」
「そうだね、『蛹が蝶になるように』とか言ったりするけど『蛹が変態するように』とはあんまし言わないもんね」
どちらかと言うと文系な獏良がそう言った。
「同じ春の『変態』なのになんかずいぶん違うよねぇ」
遊戯がそう言って笑う。
『変態』の話などしていると知りもしない蝶はひらひらと空に舞う。
その行方を眼で追っていた遊戯の動きが止まった。
「・・うそ」
どうしたのかとその視線の先を追えば、其処に遊戯とよく似た人物。
本田や城之内は、過去の記憶の中で見た、褐色の肌。
「行きなよ、遊戯くん」
「そうだぜ遊戯」
獏良の言葉に城之内も同意する。
「お前が送り出したんだ、お前が一番に出迎えてやるのが筋ってもんだろ」
バン、と背中を叩かれて遊戯は頷いた。
「うん、ありがと!城之内くん!皆!!」


にこり、と笑って駆け出す。



羽化した蝶が飛び立つ瞬間のようだ。







そんな風に思いながら、仲間たちはその後に続いた。




END

 

 





闇表。闇様帰ってきましたパラレル。
闇表と言いながら闇様の出番はほぼナシですいません;

御伽、本田は理系、獏良くんはシナリオ書いたりするし文系かなって思ってる。



 
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)



 

2009.03.29

 

 

 

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