伝えたい(闇表)
『言ってくれなきゃ、わかんないよ!』
流れっぱなしの販促ビデオから主人公らしき女の子が叫んだ。
カード屋へ寄った帰り、隣の玩具屋の前で思わず立ち止まる。
言わなきゃ、わからない。
確かにそうだ。
『なんだ、相棒。オモチャが欲しいのか?』
ふわり、と遊戯だけに見える姿で隣に現れた<遊戯>が問う。
『祖父ちゃんの店にあるものとは全然違うな。でも此れ対象年齢5歳以上って書いてあるぜ?』
明らかにからかう様なその言葉に遊戯はぷぅと頬を膨らませた。
「要らないよ!」
『そうか?』
<遊戯>は遊戯が足を止めた原因の、未だ再生を続けるビデオを見て言う。
『じゃあこういうアニメが好きなのか?』
<遊戯>の声にはまだ楽しんでいるような響きがある。
まだこのネタでもう少し遊戯をからかいたいらしい。
遊戯は呆れたように言った。
「キミはこの手のアニメをちょっと舐めてるね!」
『そうか?』
先ほどとは違うトーンで<遊戯>が聞き返す。
そうだよ、と大きく頷いて、遊戯は腰に手を当てると講釈をたれる態勢に入った。
「まず、こういうアニメはオモチャが売れないといけない。スポンサーが大抵オモチャ屋さんだからね」
『成程』
神妙な顔で<遊戯>が頷く。
気を良くして遊戯は続けた。
「玩具を売れるためにアニメ制作者側がすることは、まず主人公をカッコ良くしなくちゃいけない」
『ほお』
「主人公の使っている武器とか、このアニメだったら変身するためのアイテムとか?そういうものを子供が持って、その自分の憧れるカッコ良い主人公になったつもりになる。つまり『なりきって遊びたい』と思わせるわけさ」
『成程、それでオモチャが売れるという寸法だな』
「そう」
遊戯は頷いて見せた。
「でも反対に主人公をカッコ悪くする場合もある。ちょっとドジでおっちょこちょい、勉強はちょっと苦手、とかね」
『それじゃオモチャが売れないんじゃないのか』
「ところが、そうでもないんだよ」
此処がウンチクの垂れ所、とばかりに遊戯は続けた。
「カッコ良くて自分では手が届かないヒーローと違って、こっちは親近感が生まれるわけだよ。身近な存在だから応援したくなる。感情移入ってヤツ?」
『そうか、成程な』
「その上で主人公が努力してだんだん強くなっていくと子供が番組を見るでしょ?そうすると」
『オモチャの売れ行きも右肩上がり、というわけか』
「そう」
『成程、奥が深いな』
心から感心したように<遊戯>が言った。
でしょう、と遊戯は答える。
「最近の子供は、子供だから、なんて侮れないからね。ストーリーだって重要なんだよ」
“言ってくれなきゃわかんないよ”
先ほどの台詞を思い出す。
「さっきの台詞だってそうだよ。ほんと、そうだよね」
言わなきゃ、伝えなきゃ、と思いながら先延ばしにした。
多分わかっていてくれるだろうなんて、自分に都合のいいことばかりを考えて、何も言わなかった。
言わなくたってわかってくれる。
だけど、ちゃんと言わなきゃいけないこともある。
だから。
「ボク、<もう一人のボク>のことが大好きだよ」
END
流れてたビデオはハトプリです(^^ゞ
お題はこちらから
capriccio
2010.03.28