菊咲月(きくさづき) 蜩(ひぐらし)。夕暮れ。冷めない記憶の香り。
何時からだろう。
ボクは夏が過ぎていくのを惜しんでる。
蜩が必死に鳴くのを聞きながら学校の屋上で城之内くん達を待つ。
2学期開始直後のテスト、ボクは運よく赤点+呼び出しのコンボを免れた。
そうしてこうやって城之内くん達を待っている訳だ。
「もう夏も終わりだねえ」
『残念そうだな相棒』
傍から見ればどうしたってただの独り言だろうけど、ボクにはちゃんと返事が聞こえる。
だからその声に、<もう一人のボク>に、残念だよ、って返事をする。
「だって夏休み楽しかったじゃない。花火もしたしお祭りも行ったし、皆で海も行ったしね。そんで西瓜食べてかき氷食べてアイス食べて」
『そして最後は獏良の家で皆で必死に宿題をやったな』
皆死ぬかと思うほど必死だった、と<もう一人のボク>は笑う。
「意地悪」
あの過酷な勉強会を思い出してボクは口を尖らせてみせた。
其れを見て<もう一人のボク>はまた笑う。
ボクも可笑しくなって一緒に笑った。
ひとしきり笑って、ようやくその笑いも収まってからボクは空を見上げながら言った。
「ずうっと夏休みだったらいいのになぁ」
『…ああ、そうだな』
一拍置いて返事がくる。
同意するキミの目は何処か遠いところを見ている気が、した。
何時からだろう。
ボクは過ぎて行く時間を捕まえておくことが出来たらいいのになんて、馬鹿なことを考える様になった。
きっとキミが古代エジプトの王さまだって知った時から。
いつか還るべき場所へ、ボクから離れて行ってしまうのだと知った時から―――――。
沈黙が降りた気がして、ボクは話題を変えようと努力する。
「でも秋は秋でいいよね。食べ物が美味しい季節だものね」
『そうだな』
相棒は食べ物の話ばかりだな、なんてキミが笑う。
キミが笑ってくれるならそれでいいんだ。
こうやって過ぎて行ってしまう季節を見送りながら、ボクはキミのことを考えてる。
何時か居なくなってしまう、キミのことを。
END
闇表
どうもこういう話になりがちでスイマセン…
でも菊って仏様に供える花だしね…
闇表でらぶらぶでハッピーな話書きたい…
▼お題はこちらから
Fortune
Fate
2011.09.25