■二つの願い(闇表)■

闇表。











「3つまで願い事がかなうならなにがいい?」
突然の相棒の言葉に少なからず驚いて<遊戯>はもうひとりの自分を見た。
遊戯は大真面目だ。
自分の部屋でふたりでデッキを作っていて。
そんな前ふりはまったくなかっただけに、どう答えていいものやらと思案する。
さっきから手の中の千年パズルをいじっていたのには気が付いていたのだが。
『そうだな』
<遊戯>はおもむろに言った。
『とりあえず・・・』
「うん」
『願い事を増やしてもらおうかな?』
そう言って片目を瞑ってみせると、案の定相棒はむくれた。
思いっきり頬を膨らます。
なんていうか。
こういう仕草がカワイイと思う。
「もう〜!ボク真面目に聞いてるのに!!」
『すまない』
笑いながらあやまって膨れたほっぺたを指先でつつく。
もちろんフリだけで実際には触れられはしなかったけれど。
何もふれない指先にちり、と痛みが走る。
『そんなに怒るなよ、相棒』
<遊戯>が楽しそうに笑うので、遊戯もついつられて笑ってしまった。
『でも突然どうしたんだ』
本当は何を考えていたのかなんてだいたいわかってる。
これだけ近くに心があるんだから。
「ん〜、だってさ、ボクばっかり願い事かなえてもらうのは不公平じゃないか〜」
そう言って遊戯はまたパズルを抱えるように持った。


本当は、願い事は最初のひとつだけだった。


パズルを組み立てながら考えていた。
もしこのパズルが出来た時に、何かひとつ願い事がかなうなら何を願おうかって。
願い事はひとつだけ。
それは決まっていた。
親友が欲しい。
どんなときも裏切らない、裏切られない、親友。
パズルが出来たって願い事がかなうなんてことあるわけないってわかってたけど。
でも。
願い事がかなうって信じてなかなか解けないパズルを組み立てるのは楽しかった。
そうして、パズルは確かに願いをかなえてくれたのだ。
ひとつだけの願い事。
だけど。
人間は欲張りで。
あの時、もうひとつ願い事をした。



『もう一度、会いたい』



“もうひとりのボク”を失いたくなかった。
ちゃんとあやまりたかった。
パズルはまた、遊戯の想いに答えてくれた。




「だから、“もうひとりのボク”の願い事は何かな〜と思って」
『相棒がかなえてくれるのか』
<遊戯>の問いにボクの出来ることならね、と念をおす。
願い事増やせっての、なしだよ!
もうひとつついでに念をおしておいたりして。
『オレの願いはもうかなってる』
微笑んで<遊戯>は言った。





ずっとひとりだった。
暗闇にひとりきり。

でも。

“誰か”が来てくれるってわかっていた。
それは希望ではなく、確信。
必ず、来てくれる。
どれだけ長い年月を重ねようとも。


そして扉が開かれた。


相棒がみんな教えてくれた。
誰かと一緒にいると“楽しい”ってことも。
ひとりじゃないってことも。



『相棒に出会えたこと』
「でも、それじゃひとつじゃないか〜」
遊戯は尚も食い下がる。
『ふたつめは相棒と一緒だし』
「あ・・そうなの?」
だからあんなに早くパズルが出来たのかな。
遊戯は独り言のようにつぶやいた。
なんだか・・・照れてしまう。
だって、それって。
『オレは相棒のこと“大好き”だからな』
遊戯の心を読んだように、<遊戯>が言った。
そして相棒の耳が見る見る赤くなっていくのを楽しんでいると、精一杯の逆襲がきた。
「そんなの、ボクも、だよっ」



最後の願いは、もう決まってる。
多分それも本当はふたりとも同じこと。
だけどそれが“わがまま”だってこともわかってる。
この願いをパズルがかなえてくれるかどうかわからないけど。


それでも、今はこのままで。

 

 


END

 




最後のお願いは「ずっと一緒に居たい」

 

2000.10.24

 

 

 

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