手が好きなんです。
「・・っくしゅ!」
今日何度目かの遊戯のくしゃみに<遊戯>は眉を顰めた。
『大丈夫か、相棒』
「・・風邪、ひいちゃったみたい・・」
<遊戯>は少しだるそうな相棒の額に手を伸ばしかけて・・・やめた。
遊戯は引かれた手に気がつかないふりをする。
『薬飲んどいたほうがいいんじゃないのか?』
「うん」
遊戯は素直に頷いて薬箱を探り始めた。
「ボク、錠剤の方がいいんだけどなぁ」
あいにく箱の中には顆粒の風邪薬しかない。
「これ苦いからやだ」
『仕方ないだろう、それしかないなら』
「・・ね、ちょっと代わってよ」
いたずらっ子の瞳で言った遊戯の言葉はあっさり却下される。
『甘やかすのはよくないからな』
「ちぇ〜イジワル〜」
『いつもは優しいだろう?』
「・・・そうかな」
遊戯はおおげさに考えるポーズを作って見せた。
<遊戯>の手が頭を小突くようなしぐさを見せる。
それは遊戯にしか見えなくて、もちろん実際には触れられないのだけれど。
それが少し寂しいと感じるのだけれど。
額に冷たい手のひらを感じて遊戯は目を覚ました。
心配そうな<遊戯>の顔が目に入る。
「・・・起こしたか?」
「ううん・・冷たくて気持ちいい・・」
目を覚ましたとは言ってもここは“現実”ではなく心の中だった。
風邪薬のせいなのか、それとも熱が出たのか、身体が熱くて。
現実との境界線が曖昧になっている。
この手は現実?
現実ならいいのに。
遊戯は身体を奥にずらしてスペースを作ると<遊戯>に向かってそこを叩いて見せた。
「・・それで今日はパズルしたまま寝たのか」
「だって<もうひとりのボク>冷たくて気持ちいいんだもん」
熱出ちゃうかなって思ったし、と遊戯は付け加えた。
「いつもはオレがベッドに入ろうとすると嫌がるくせに」
「今日ボク病人だもん。具合悪いのに<もうひとりのボク>だってヘンナコトしないでしょ?」
「・・・ヘンナコトって?」
遊戯の隣に滑り込みながら<遊戯>が聞いてくる。
声には笑いが含まれていてわかっていて言っているのは一目瞭然だ。
「・・・やっぱりイジワルだ」
遊戯の顔が赤いのは熱のせいばかりではない。
それを隠すのも兼ねて大きな声で一応確認する。
「風邪、移らないよね?」
「ああ」
大丈夫だ、と<遊戯>が頷くのを待って遊戯はベッドに潜り込む。
<遊戯>がここにいるのを確かめながら遊戯は再び眠りに落ちる。
考えることは、ひとつだけ。
ずっと一緒にいれたらいいのに。
END
2000.11.24