その時、ビルの上から声がした。
「そんな怖い顔してデュエルをしても、楽しくないだろ?」
「はあ?何だいアンタ」
正直、何を言ってるんだコイツ、って思った。
関係無い部外者の癖に、人のデュエルに口挟んでくるなんて何考えてんの、って。
けどソイツはあっという間に誰も傷つけずに喧嘩を収めてしまった。
その手腕に私はドキモを抜かれ心まで奪われちまったんだ。
「恋ってのは落ちるものだって言うけど、まさにそれだね。その時、『この人だ!』って思ったんだ。電流が走るとでもいうの?そんな感じさ」
「へー」
「もー、ホントにカッコよかったんだよ父さんは!!」
「ハイハイ」
息子の背中をばしばし叩いて、洋子は上機嫌だ。
遊矢的には、なんで親の惚気話なんて聞かなければならないんだ…、と言った心境ではある。
『スマイルワールド』でその場を収めたデュエルの話はとても興味深かったけれど、惚気話の方はぶっちゃけうんざりだ。
気のない返事をする遊矢に洋子は言った。
「アンタだってそのうち、そういう相手に巡り合えるわよ」
「は?」
アタシとあの人の子供なんだもん、と良くわからない理論を振りかざして洋子は続ける。
「もしかしたらもう、出会っているのかもね」
そういう人を見つけたら、しっかり捕まえとかなきゃ駄目よ。
***
何言ってんだか。
けど、父さんのデュエルの話を聞いてやっぱりデュエルは戦いの道具なんかじゃないんだって確信した。
デュエルで、笑顔を。
その為にはやられたらやり返す、じゃ駄目なんだ。
それじゃ笑顔なんて生まれない。
具体的にどうしたらいいのか、まだよくわからないけど…。
『何処に行っても笑顔を忘れちゃ駄目だ』
それでもそう言ってくれた母さんの言葉を胸に、ランサーズとして呼び出された部屋の扉を開ける。
「お、なんだ。少しはマシな顔になったじゃないか」
沢渡が人の顔を見て言った。
毎度変わらず偉そうな奴だ。
「なんだよ、マシな顔って」
言い返すと沢渡は鼻で笑った。
「大会が中止になった時は、悲壮感漂うヒドイ顔だったからな」
悲壮感て。
そんな酷い顔をしていただろうか。
確かに柚子がアカデミアに連れ去られて、其れが自分のせいにしか思えなくて、辛くて仕方なかったけど。
「あんな顔してデュエルしてたって、観客を楽しませることなんか出来るわけないからな」
「え」
『そんな怖い顔してデュエルしても楽しくないだろ』
沢渡の言葉に父さんの声が重なる。
「自分が楽しく無いデュエルを見て、観客が楽しいと思うか?んなわけないだろ」
そうだ。
観客を楽しませるのがエンタメデュエルだ。
父さんのデュエルだ。
オレは父さんみたいなデュエリストを目指してるんだ。
雷にでも打たれたみたいに、目が覚めた気分だった。
母さんの言っていた『電流が走る』ってのがわかった気がした。
まさにそんな感じだった。
気が付けばオレは沢渡の手を両手で握って叫んでいた。
「オレと結婚して下さい!」
END