クラゲ野郎を倒して、毒は消えたようだ。
少し呼吸が楽になった。
けれど受けたダメージが急に無かったことになる訳もなく、なかなか立ち上がれない。
「おい、凌牙。大丈夫か」
「触るな」
伸ばされた手を思わず払っていた。
打たれた手を見て、当然だという様にWは笑った。
違う。
出会ったときからずっと、コイツが憎かった。
けれどオレはもうお前のことを憎んではいない。
全部、悪いのはバリアンだ。
フェイカーを唆し、トロンと、遊馬の親父を異世界に飛ばした。
トロンの為に動いたコイツの気持ちはわからないでもない。
オレは璃緒の為なら何でもやる、其れがコイツにとっては親父だっただけだ。
悪いのは、バリアンだ。
だからオレはバリアンを許さない。
けれどあの遺跡で見たように、オレもバリアンかもしれない。
決して許さないと誓ったバリアン…その仲間なのかもしれない。
そうしたらむしろコイツは被害者なのではないだろうか。
コイツの方がオレを憎んでしかるべきなんじゃないだろうか。
アレだけ憎んでおいて、反対に憎まれることは怖い、なんて。
憎まれたくはないなんて。
虫のいい話だ。
*
バリアンのクラゲ野郎を叩きのしたから、毒は消えた筈だった。
それでも受けたダメージが急に無くなる訳もない。
膝をついたままなかなか立ち上がらない凌牙に思わず手を伸ばす。
「おい、凌牙。大丈夫か」
「触るな!」
ぱしん、と乾いた音を立ててその手は振り払われた。
凌牙の反応は当然だ。
オレ達の、オレのせいで妹は怪我をして長いこと入院していた。
オレは笑った。
なのに凌牙はまるで罪人のような顔で此方を見て、さっと視線を逸らした。
オレはまた笑う。
罪人はこっちだっつーの。
なんでお前がそんな顔してんだよ。
そんな顔をされたら居た堪れないだろ。
オレはお前に憎まれて当たり前のことをした。
お前はオレを嫌っていていいんだよ。
出会った時からずっと、其れが当然なんだから。
「おい遊馬、コイツ立てねえってから手を貸してやれよ」
「お、おう」
遊馬なら大人しく肩を借りるだろうと思ったが、凌牙は奴を押しのけた。
「おい、W」
「なんだよ」
「こいつじゃチビすぎんだろ。お前の肩貸せ」
「はあ?」
何言ってんだコイツ。
そう思ったがVがオレのことをぐいぐい押すので仕方なく戻る。
「なんなんだよお前」
「いいからさっさと肩貸せ」
「へいへい」
凌牙は此方を見ない。
何だお前、オレのこと可哀相とか同情しちゃった訳か。
親にいいようにオモチャにされた可哀相なコとか思ってんのか。
同情なんかされるくらいなら、憎まれた方がマシだ。
END