まるで砂を食んでいるようだ。
「いっただき〜」
最後に食べようと大事にとってあったらしいショートケーキの上の苺にぐさりとフォークを突き刺す。
案の定末の弟は、兄サマひどい!返して!と大騒ぎだ。
思った通りの反応。
弟は本当に分かりやすくて可愛い。
もちろん弟の分を食べるつもりはない。
ただ、からかっているだけだ。
ふくれる弟が可愛いので、其れ見たさに遊んでいるだけだ。
それに。
「止めなさい二人とも」
静かな声が仲裁に入る。
優しい笑みと共にそんな風に叱られたくて態とやっているのだ。
多分兄も弟たちが本気で喧嘩している訳ではないなんてことは気が付いている。
「はあい」
それでも其れがばれるのは嫌で、渋々という風に装って、弟に苺を返してやる。
苺の刺さったままのフォークを向けると弟は嬉しそうに其れに齧りついた。
我が弟ながら本当に可愛い子だ。
笑う弟を見て、思わず自分も笑う。
「ほら」
呼ばれて見ると、兄が自分の苺を此方に差し出していた。
「欲しかったのだろう?」
「でも、」
そしたら兄サマの分が。
言いかけた言葉は優しい笑みに遮られる。
「大丈夫、お食べ」
そう促されて、先ほどの弟と同じように兄のフォークで食べさせて貰った苺は、驚くほど甘かった。
何時からだろう、あんな風に笑いかけて貰えなくなったのは。
ただあの笑みが欲しかっただけなのに。
「兄サマ、またX兄サマと喧嘩したのですか」
心配そうにそう問う末の弟の顔にもあの笑顔は無い。
気品だの誇りだの、そんなもの食えやしない。
自分たちが今、糧としている復讐という名の赤い果実は、まるで砂のようで。
あの時の苺のように心を潤してはくれなかった。
END