かまって欲しいのだという事は気が付いていた。
此方がかまってやろうとすればさっさと逃げ出す癖に、では仕方ないと放っておけば寂しくなってかまえかまえと騒ぎたてる。
まるで猫のようだ。
新聞でも読もうかと広げればその上にわざわざ乗る。
まさにそんな気分でXは読みかけの本に栞を挟むとテーブルへ置いた。
さっきからすぐ側で悪態をついていたWが言う。
「お、やっとオレの話を聞く気になったのかよX」
話などわかっている。
というか単にかまって欲しくて騒ぎ立てているのだと知っている。
口を開けば憎まれ口ばかり叩く弟だが、寂しがっているのだと思えば可愛いものだ。
「W」
Xは自分の隣をぽんぽんと叩いた。
「なんだよ」
引っ叩かれるかと用心しながらもWは大人しくソファに座った。
こういう所は意外に素直だ。
さて猫じゃらしでもあればよいのだが。
Wが聞いたら憤慨しそうではあるが、Xは真面目にそんなことを考えた。
その目に留まったのはテーブルの上の耳かきだった。
さじの反対側には凡天がついている。
それが猫じゃらしの代用品としてぴったりな気がした。
綿棒ではどうにも感触が頼りない、もっと思いっきりガリガリやった方が気持ちいい、などとトロンが言うので、Vが買って来たものだが、まだ未使用だ。
先に使うのは悪い気もするが、其れを手にとって凡天の方を振りながら、Xは今度は自分の膝を叩いた。
「あ?なんだよ」
「耳の掃除をしてやろう」
「何でだよ」
猫は毛を逆立ててフシャアと鳴いたが勿論其れは無視する。
「早くしろ」
急かしてやると、渋々と言った様子でWは横になった。
耳掃除が始まってしまえば比較的大人しい。
暴れれば痛いだけだとちゃんと理解しているのだろう。
「…くすぐったい」
「そうか。此れは気に入らないか」
仕上げに凡天でくるりと中をなぞってやるとWが文句を言った。
では、とばかりにフッと息を吹きかけてやる。
「ぎゃあ!」
文字通り耳を押さえてWは飛び起きた。
「な、何すんだよ!X!」
「別に」
Xはしれっと言った。
「此れは気に入らなかったのだろう?」
だから仕上げに吹いただけ。
惚けてはいるがXだって何故Wが飛び上がったのかよく解っている。
解っていて態とやったのだ。
「さあ、反対側だ」
Xは再び膝を叩いてWを促す。
うぐぐ、と唸ったWは其れでも反対を向いて膝の上に転がった。
赤くなった耳をうっかり可愛いなどと思ってしまった。
次は吹くだけでは無く、噛んでやろうか。
かまって欲しかったのは自分の方かもしれない。
END