「夕飯は和食がいい」
そう言うと思った通りWは眉を釣り上げた。
「ああ?和食って具体的になんだよ」
「魚」
「魚ぁ?お前はじーさんか」
其処は肉だろ、肉。若者なら。
相変わらず憎たらしい口を利きながら、Wは冷蔵庫の中を確認して買い物用のエコバックを肩に掛けた。
「買い物行くからバイク出してくれよ」
「メンドくせえな」
「しょーがねえだろ、オレ足ないもん」
大威張りなWに歩いてけよと突っ込みそうになったが、凌牙は黙ってメットを投げてやった。
スーパーの食品売り場でうろうろするWに着いて来たのはいいが、特にやることも無いのでかごを持ってやる。
一応有名人な筈なのに誰も気がつかないのは、私服でかなり雰囲気が違うからだろうか。
極東チャンピオンとしてのWはかなりの猫被りだ。
「魚…魚ねえ。魚って言っても色々あるしなー。まーいいや魚なら文句言わねえな?」
魚で選ぶよりも自分が作れるもので選択することにしたらしい。
凌牙は言った。
「食えればな」
「食えるだろうがよ!いつも」
失礼な奴だなとWはむくれた。
家に戻るとすぐ準備を始め、やがてテーブルに料理が並ぶ。
其れを見て凌牙は言った。
「和食か此れ」
「白米がありゃ和食だろ!魚なら文句言わねえっつーただろうが!」
香草を使った白身魚のムニエルは和食と言うよりイタリア料理のようだ。
味はまあまあなので凌牙は大人しく食べることにした。
料理はさほど得意ではないようだが、元来器用な為、レシピさえあればそこそこのモノは作れるようだ。
「とっても美味しいですよ兄サマ」
「うん、上出来じゃないか」
「タイムを使うなんて本格的だね」
「あーこないだテレビでやってて簡単そうだったからさ。レシピもサイトに載ってたし」
凌牙を抜きにして、夕食の席で会話は弾む。
すべてが終わった後、Wは再び凌牙の前に謝罪に現れた。
許されないのはわかっている、けれど自分の出来る事ならば何でもすると言った。
凌牙もWが妹に怪我を負わせたのが故意ではないともうわかっていた。
けれど理解してもそう簡単に納得出来るものではない。
随分長い間、Wに復讐することだけを考えてきたのだ。
何でもする。
そう言うのならば、その言葉通り奴隷のように扱ってやろうと思った。
その筈だったのだが。
気付けば兄弟やら元に戻った親までも付いてきて此処に居るのは何故だろう。
コイツらが仲良し家族に戻った事は良い事なのだろうが。
解せぬ。
今の凌牙の想いを一言で表すならまさに此れだろう。
END