妹を傷つけたWを絶対に許せないと思っていた。
故意でない事はわかっている、けれど割り切れる筈も無い。
Wも許されるとは思っていないと言った。
その上で何でもすると。
だから今はとりあえず家政婦のような扱いになっているのだ。
「おかえり、父さん」
階下に降りようとして、帰って来た父親をWが玄関先で迎える現場に出くわしてしまった。
なんとなく出て行き難くて、そのまま階段に腰を下ろす。
此処からなら向こうからは見え辛いだろう。
「ただいま」
父親はにこりと笑ってそう告げた。
優しく笑うその様子はトロンと同一人物であるとは俄かには信じがたい。
「いい匂いがするな」
「あー今日、肉なんだけどさーこないだタイムが評判良かったからローズマリー使ってみたんだ」
「いいね、美味しそうだ」
嬉しそうだ。
父親でなく、Wが。
特にたいしたことない会話であるというのに、ほんの少し褒められたくらいでそんなに嬉しいものだろうか。
馬鹿じゃないかアイツ。
『誰も信じない』『いいよ勝たなくて』
自分とのデュエルの時にトロンはWにかなり酷いことを言っていたと思う。
客観的に見ても父親にそんなことを言われたらかなりショックだろう。
それでもWはデュエルの後、帰って来てくれるのを待っている、と言った――――
「あ、父様」
Vが父親の帰宅に気が付いて、声をかけようとした。
其れを襟首掴んで階段の方へ引っ張り込む。
「ちょ、何するんですか、りょう…」
「静かにしろ」
小声でそう言うと、空気の読めない性質では無いVは黙った。
あのデュエルの詳細を凌牙は他の兄弟には告げていないし、Wも喋っていないだろう。
きっと自分がどんな扱いを受けたかなんて生涯誰にも言わないだろう。
そう簡単に許せるものだろうか。
血の繋がった家族だからだろうか。
それでも完全に忘れることは難しいと思うのに。
玄関先での会話を終え、Wとバイロンが此方へ移動して来た。
凌牙は今しがた降りて来たかのように装う。
「腹減った」
「あ、おかえりなさい、父様」
Vもそれに倣った。
「ただいま、V。凌牙と一緒に居るなんて珍しいね」
凌牙とVはさほど仲良くはないから、確かに一緒に居る事は珍しい。
Wはもしかしたら何か気が付いたかもしれないけれど、何も言わなかった。
絶対に許せない。
けれど許さない限り、Wは此処に居て、毎日顔を合わせることになるのだ。
END