遊アス
公園5題
「小鳥のヤツ、遅いな」
珍しく外で待ち合わせしたら、小鳥がなかなかやってこない。
待ち合わせ場所の公園で遊馬は少し不貞腐れた。
近くの柵へ寄りかかってぶうたれてみせる。
傍から見れば独り言にしか見えないだろうが、そうではない。
遊馬の愚痴は勿論アストラルに向けたものだ。
『そうだな』
アストラルが側にあった公園の時計を見上げて相槌を打つ。
約束の時間は5分ほど過ぎていた。
5分くらいなら、まあまだ待てるけれど。
人が学校に遅刻しようものならまるで姉ちゃんのように小言を言ってくるくせに。
学校に遅刻するのとは話が違うとはわかっていたがぼやきたくもなる。
全く女ってのは全く勝手だよな。
文句を言うとアストラルは澄まして言った。
『だが女性は支度に時間がかかるものだ。仕方あるまい』
服を選んだり、アクセサリーを選んだり、そういうことに時間がかかるのだろう。
アストラルがそんなことを言うので遊馬は思わずアストラルを見上げた。
「…お前、そーゆーの一体何処で覚えてくるわけ?」
『テレビだ』
まあそうだろうな、と遊馬はがくりと項垂れる。
アストラルはテレビっ子なのだ。
アストラルは普段遊馬にしか見えないし、遊馬としか会話も出来ない。
この世界でわからないことは基本的に遊馬に訊くしかない。
けれどこの異世界のデュエリストはとても「記憶する」ことに熱心だ。
遊馬が教えないこともテレビや他の人間の会話や文字から学び取ろうとする。
自分の記憶が無いせいかもしれない。
だから他のことでその隙間を埋めようとしているのかもしれない。
無くなった自身の記憶の代わりに他の記憶を詰めようとしているのなら、遊馬にそれを止めろと言うことは出来ない。
けれど何となく面白くないのだ。
そんなモノに頼らないでオレに全部聞けばいいのに、なんて思ってしまう。
もっとオレを頼ってくれればいいのに。
「お前さー、変なことばっかり覚えんなよな」
『変なこと?』
アストラルは遊馬の言葉に首を傾げた。
『私の観察によると、遊馬が一番変だと記憶しているが』
「オレは変じゃねー!」
それが子供じみた独占欲だなんて勿論遊馬本人は気が付いていない。
END