「なんか、デュエリストの幽霊が居る時には勝ってるような気がするわね」
学校からの帰り道、小鳥の一言が家に着いてからもどうにも引っ掛かって仕方ない。
特に他意もなく、思ったことを口にしたのだろうけれど。
確かに此処の所、<ナンバーズ>が係わったデュエルでは勝ち星を増やしている。
その時にデュエリストの幽霊、アストラルが側に居ることも確かだ。
実は遊馬自身もほんの少しそうかもしれない、と思う処があるので余計にムッとしたのだ。
屋根裏部屋のハンモックの上で遊馬は唸った。
「オレの実力だってーの!!」
『確かにあんな風に言われるのは私としてもとても不本意だ』
珍しくアストラルが遊馬の言葉に頷いた。
意見が合うなんて珍しい、しかも其れがデュエルのこととなるともっと珍しい。
そう思って見上げる遊馬に、宙に浮かぶアストラルは続けた。
『キミは私の言うことをまるで聞かない。守備表示で出せと言っても攻撃表示でセットしてしまう。そのせいで負けそうになったことも一度や二度では無い』
うっと遊馬は詰まった。
『それなのに私のおかげで勝てた、などと評価されるのは私としても本意ではない』
「な、なんだよぉお」
もしかしたら言うこと聞かないで自分の思った通りにデュエルすることに腹を立てていたのだろうか。
アストラルはあまり表情が変わらなく、いつでも淡々としているのでわからなかったが。
しかし考えてみればナンバーズとのデュエルはこの幽霊にとって、自分の記憶の懸かった重要な一戦なのだ。
それを言うことを聞かず勝手にやっていたのでは確かに頭にも来るかもしれない。
けれど遊馬にだって言い分はある。
デュエルしているのは自分なのだ。
自分の力で勝ちたい、人に指図されたくない、と思うのは当然ではないだろうか。
「・・勝ったんだからいいじゃんか」
結果オーライだろ、と言ってみる。
デュエルに負けたら消える、と言われても、幽霊なんだから別に平気じゃね?くらいに思ったりもしたけれど、アストラルにとっては多分死活問題なのだ。
いいじゃん、と言いながらちょっと声が小さくなる。
小さな声の遊馬を特に気にしていない様子でアストラルは言った。
『そうだ、確かに勝った』
遊馬を覗き込むようにしてアストラルは続ける。
『やっていることはめちゃくちゃなのに勝つ・・キミは私の理解を越えた不思議なデュエリストだ』
覗き込む切れ長の大きな瞳は、金。
それなのに白っぽく見えることもある不思議な色。
この色を見ることが出来るのはこの世界で遊馬だけなのだ。
自分にしか見えない、不思議な幽霊。
「不思議なのはお前だろ」
『・・・そうか。私は不思議か。記憶しておこう』
アストラルが何時もの調子で真面目にそういうのが何だか可笑しくて笑ってしまった。
END