遊アス遊
先生戦の後、ウラの話の前くらい。
「なあお前って」
『お前では無い、アストラルだ』
話しかけようとしたら、遮られてしまった。
遊馬は不満を顕わに唇を尖らせるが、アストラルには通じなかったようだ。
早く呼べ、と言わんばかりの態度で此方を見降ろしてくる。
呼んで欲しいというのならば呼んでやらなくもないが、どうにもその偉そうな態度が気に障る。
奴が言うには、右京先生とのデュエルで勝利し、ナンバーズをまた一枚取り返したことで、少し記憶が戻ったのだそうだ。
自分はアストラル世界から来たアストラルだ。
其れからずっとこんな調子で、はっきり言って五月蠅いことこの上ない。
何処だよアストラル世界って。
それでなくとも、普段はアレは何だソレはどうしてだ、デュエル中はああしろこうしろ其処で守備表示にしろ攻撃しろ、と本気で五月蠅いというのに、それに輪をかけて五月蠅い。
あんまり五月蠅いものだから、もう面倒くさくなって、ハイハイ、と流すと遊馬は質問を続けた。
「お前、時々居なくなるじゃん。何処行ってるの」
お前では無い、アストラルだ、と先ほどと同じセリフを吐いた後、アストラルは遊馬の胸元を指差した。
『其処だ』
「へ?この鍵?」
首に掛けたままの鍵をちょっと触って見せると、アストラルは頷いた。
『その中には複雑な仕組みの建造物がある』
「けんぞうぶつぅ?なんだそりゃ」
何を言い出したのかこの幽霊は。
思ったままを声に出すと、アストラルは遊馬の顔を見て長い溜息をついて見せた。
この記憶喪失の幽霊は、思いっきり馬鹿にした態度を取る処が憎たらしい。
記憶が無いくせにこういう態度だけは覚えているらしい。
まったくムカつく奴だ。
『人はこの中には入れないのだな。・・・記憶しておこう』
「フツーは入れないんだよ!!」
お前がオカシイんだ、と叫ぶがアストラルは涼しい顔だ。
其れを見ていたら自分だけがムカついて叫んでいるのが虚しくなった。
「まったくもう・・どうでもいいけど壊すなよな。此れは大切な父ちゃんと母ちゃんの形見なんだから」
『父ちゃんと母ちゃん・・其れはこの写真の人物のことか』
小さな机の上の写真立てを見てアストラルはそう言った。
「そ。冒険家だったんだぜ」
写真立てを手にとって、母ちゃん美人だろ、と自慢してみる。
『そうか・・大切なものなのだな』
大切な、もの。
写真立てを覗き込みながら、そう言うアストラルの目がなんだか少し何時もと違って見えた。
寂しそう?それとも悲しそう・・?
よくわからないけれど、つい遊馬は聞いてしまった。
「お前、ナントカ世界から来たって、」
『アストラル世界だ』
「ああもうわかったって!いちいち訂正すんなよ!!」
寂しそうに見えたのなんてやっぱり気のせいだった、と思いながらも遊馬は続ける。
「そのあすとらる世界に、父ちゃんとか母ちゃんとか居るの?」
『わからない』
答えはやっぱりいつもと同じだった。
自分の事はほぼ全部「わからない」のだ。
この自称・余所の世界から来た異世界人のちゃんと覚えていることと言ったら、ただ名前だけ。
それだけ。
多分それが今唯一持っている大切なモノ。
アストラル、かあ。
とりあえずデュエリストの幽霊よりはよっぽど呼びやすい。
小鳥たちにもそう呼ぶように言ってやろう、と遊馬は思った。
END