遊アス遊
風也戦の後くらい。
この自称・異世界人は人の言うことをすぐ鵜呑みにする。
説明するのが面倒くさいったらありゃしない、と遊馬は思っている。
「風也と母ちゃん、仲良くなってよかったな」
『そうだな』
素直に頷いたアストラルを遊馬は見上げる。
最初に、風也は辛いのだな、と言ったのはアストラルだった。
実際その通りで、風也は苦しんでいた。
母親のことは大好きだけれど、母親の言うとおり何時でも“ロビン”で居ることは苦痛で、自分を偽って生きていくのが辛くて、どうしたらいいかわからなくなっていた。
風也の気持ちがわかるような気がする。
そう言ったのもアストラルだった。
「なあ、お前の母ちゃんてどんな人なんだ?」
聞いてみたくなって、遊馬は言った。
『わからない』
いつもと同じ答えに少しがっかりする。
だが、とアストラルは続けた。
『だが、私は多分、母親、に命じられて此処へ来た』
其れが本当に母親だったのか。
それともそうではないのか。
アストラル自身も確信が持てないようで曖昧な物言いになる。
「はあ?何で?」
『よくわからないが、何か使命があった筈だ』
「母ちゃんに一人で知らないトコ行けって言われたってことかよ?そんなんおかしくねえ?」
『おかしいのか』
記憶喪失の子供を知らない処に放り出すなんて、普通はそんなことしないだろ。
いや、家を出る時は記憶喪失じゃなかったとしても、知らない土地で記憶のないまま過ごしている子供を放っておくって、酷くね?
そう言おうとして、止めた。
おかしいのか。
そう問うアストラルが寂しそうに見えたから。
「ほ、ほら、あれだ。ライオンが崖に子供をおっこどすって言うじゃん。あれだよ!」
『ライオンという動物はそんなことをするのか』
アストラルはすぐこっちの言うことを鵜呑みにするから困る。
ハクションもなかなか理解してくれなかったし。
「ことわざだよ。ホントにそんなことするかどうか知らねえけど、多分ことわざ」
本当にことわざだったか、何かの話を適当に覚えてしまったのか、遊馬自身もよくわからなかったが、とにかく話を続ける。
「逞しく育てるため、ええと、つまり子供の為に厳しくするんだってさ。きっとお前の母ちゃんもそうなんだよ」
そんな意味だったような、違ったような。
あまり自信は無かったが、それでも遊馬は声を張り上げた。
「な!きっとそうなんだよ!!」
アストラルはじっと遊馬を見降ろして言った。
『遊馬、キミは私を励まそうとしてくれたのか?』
「そ、そんなんじゃねえよ!」
そんなつもりはない、と思う。
ただ、なんとなくアストラルが落ち込んでいるかのように見えた。
其れが嫌だっただけだ。
『そうか』
遊馬の答えに簡単にそう言うと、アストラルはもう此方に興味を失くしたようだ。
アストラルは人の言うことを顔面通りにしか受け取らない。
其れでホッとしたような、ちょっとがっかりしたような。
そんな複雑な気分になってしまった遊馬だった。
何故かは、わからない。
END