遊アス遊
アストラルが背後を付いてきて、アレは何だコレは何だと五月蠅く言う状況も大分慣れてきた。
そうは言っても、四六時中他人と一緒の生活は正直疲れる。
何でこいつはオレの後をくっ付いて歩いているんだろう、と遊馬は思う。
「お前、何でオレにしか見えないんだよ?」
『わからない』
こっちに質問は繰り返す癖に、此方の問いには何時もこの調子だ。
そっけなく『わからない』、それだけ。
全く可愛くない。
だいたい、自分じゃなくたって良かった筈だ。
自称・別世界から来たというこのデュエルの幽霊は、とり憑くならばデュエリストが良かったのだろうが、他にもデュエリストは沢山居る。
言いたくはないが自分よりももっとデュエルの強い人間だって沢山居る。
選ばれた、と言えば聞こえはいいが、何故自分なのか。
そう言えばアストラルはやっぱり『わからない』と言うのだ。
何だか面白くない。
どうしても遊馬が良かったのだ、くらい可愛いことを言ってくれたってバチは当たらないと思う。
そうしたらもう少し仲良くなれそうな気もするのに。
少し不貞腐れて夕飯をかきこんでいるとテレビを見ていた姉が言った。
「あらもうそんな時期なのね」
釣られて今まで見ても居なかったテレビに視線を移す。
カルガモの引っ越し風景だ。
カルガモの親子が向こう岸の堀へ引っ越す様が其処に映し出されていた。
「可愛いわねーやっぱり」
姉の言葉に素直に頷く。
母鳥の後ろをちょこちょこと付いて歩く雛鳥はふわふわしていそうで、とても可愛らしい。
どういう順序なのか、親を先頭にきちんと一列に並んでいるのが不思議だ。
「ちゃんと親の後付いて歩くんだなあ」
雛はちゃんと前を歩く大きな鳥が自分の親だとわかっているのだ。
だから付いて行けば安心だと思っている。
感心してそう言うと姉は言った。
「鳥は生まれた時初めて見た動くものを親だって思うって言うけど」
「そうなの?」
「そう言うわね。玩具とかでも最初は付いて歩くんだって。でも実際自分の親はちゃんとわかるみたいよ」
世話を焼いてくれるからかしらね、と姉は言った。
世話を焼く。
「世話を焼くってさー、なんか教えたりとかそういう?」
「そうね、其れもあるんじゃない。後は餌を与えたりとか…」
姉の言葉の後半はもうほとんど耳に入っていなかった。
そう言えば、アストラルは徳之助とのデュエルの時に卵のようになってしまった事があったではないか。
髪の毛も、触れないけれど見た目ふわふわしていて鳥みたいだ。
つまりアストラルは雛鳥なのだ。
自分のことを親だと思い込んでるに違いない。
そんな風に考えたらなんだか楽しくなってしまった。
この偉そうなデュエルの幽霊もちょっとは可愛く見えてくるような気がするから不思議だ。
END