■ひとりきり(京クロ)■
満足・京クロ
京介がちょっと暗い。 赤い月が、自分を見ている。 眠れなくて、居間兼会議室の窓からずっと空を見ていた。 私は世界に独りきり。 そんな風に歌ったのは誰だったろう。 皆が寝静まった夜中、一人で起きていると、その言葉が実感を伴って迫ってくる。 世界に、独りきり。 クロウも遊星もジャックも、子供の頃から一緒に育った、兄弟みたいなもんなんだそうだ。 見ていると奴らの仲は、確かにそんな風だ。 その関係はまるで家族に近い。 多分離れて暮らすことになったとしても、その絆は切れたりはしないのだろう。 自分だけが、違う。 其処に後から割りこんできた余所者だ。 独り、きり。 今にも降ってきそうな赤い月に魅入られたように、思考が沈んでいく。 「お、まだ起きてたのか?」 唐突に声を掛けられて、びくりと振り返る。 クロウが、其処に立っていた。 水でも飲みに来たのだろう。 「ああ、なんか・・・眠れなくて」 無難にそう答えると、ふうん、と特に興味もなさそうに答えながら、キッチンの方へ行ってしまった。 再び赤い月と取り残される。 赤い月だけが、自分を見ている。 「ほら」 いつ戻って来たのか、突きだされたマグカップの中には牛乳が湯気を立てていた。 「眠れないときにはホットミルクだろ」 そう言って笑うクロウから、礼を言ってカップを受け取った。 温かい。 「うっわ、すっげえ月あっけーなー」 窓枠に手を掛けて、クロウが言う。 「明日雨かもな」 「なんで?」 クロウは此方を向いて首を傾げた。 「空気中に水蒸気とかが多いと赤く見えるんだってさ」 「へえぇ」 心底感心した風に唸るクロウに、もう一言添えてやる。 「あの月をどっかの国ではストロベリームーンって呼んだりもするんだそうだ」 「へえ」 クロウは言った。 「あんな赤くて不気味なのに、なんか美味そうだな」 「クロウらしいな」 美味そう、という感想がらしくってつい笑うと、クロウは不満気に口を尖らせた。 「いいから早く飲めよ、もう寝るぞ」 「オレはもう少し此処に居るよ」 「うっせーよ、あんな赤い月見てるから余計眠れないんだよ」 無理やり残りを飲ませると、クロウはカップを取り上げて、キッチンへ置きに行った。 「ほらっ」 すぐに戻ってきたクロウが手を引っ張る。 強く引かれたわけではないけれど、クロウに付いて歩きだしていた。 温かい手に引かれながら、赤い月に見られている感覚は、遠くなっていった。 END 満足京クロ 京介さんが暗くなってたら、引っ張ってくれるのはやっぱクロウたんが良いなって。 わたしはせかいでひとりきりっつーのはAYAさん(ねうろ)です(^^ゞ これとちょっと繋がってる。
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