■「喧嘩するほど仲が良いって言うけれど」(剣翔)■

ヘルカイザー後。亮翔で剣翔。






「喧嘩するほど仲がいい」ってよく言うけど、ボクはお兄さんとそんなに喧嘩した記憶がない。
お兄さんの方が正しいのはわかりきってたから。


ボクがすぐ謝ってしまうので、めったなことでは喧嘩にまで発展しなかった。

 




テレビ中継が終わって、部屋の中はしん、と静まり返っている。
明日香さんが気を利かして電源を切ってくれた。
でもボクは馬鹿みたいに真っ黒な画面を見ながらテレビの前に座り込んでいた。

今、見たものが信じられなくて。

あれは一体誰だった?


自問自答してみるけど、そんなこと無駄だってわかってる。
だって、あれが誰かなんて、ボクが一番良く知ってるんだから。
「いやでも」
沈黙に耐え切れなくなったのか、剣山くんが口を開いた。
「勝ったんだし、よかったざうるす」

勝った?

確かに、勝った。
圧倒的に強かった。
だけど。
「全然良くないよ」
ボクは立ち上がった。
自分でも吃驚するくらい、低く硬い声。
隣に座っていた剣山くんが驚いたようにボクを見上げる。

あんなデュエル、お兄さんのデュエルじゃない。
あんなの違う。
あんなデュエルをする人じゃないんだ。
お兄さんは。

お兄さんはもっと強いんだ。


もっと。



「お兄さんのこと」



「お兄さんのこと、何も知らないくせに!」



叫んで部屋を飛び出した。



「翔」
「翔くん」
三沢くんや明日香さんがボクを呼んだけど、振り返らなかった。

 


赤寮に戻りづらくて、吹雪さんと別れてラーイエローの自分の部屋に戻った。
もう泣かないつもりだったのにベッドへ入ったらまた涙が出てきた。
なんてボクは泣き虫なんだろう。
そんな事を思いながらいつの間にか眠ってしまったみたいだ。
起きたら、結構酷い顔だった。
顔を洗うついでに鏡を覗き込む。
ちょっと憂鬱だ。
昨日のことはどう考えてもボクが悪い、と思う。
元気つけようとしてくれたのに、当たってしまった。
謝らなきゃいけないと思うと、赤寮に行くのがイヤになる。
今日は行かないで黄色寮で過ごそうかな。
だけど今日謝らないと、きっともっと謝りづらくなってしまうだろう。
それはイヤだ。
ボクは剣山くんと喧嘩ばっかりしてるけど、実を言うとそれほど嫌いなわけじゃない。

言いたいこと言い合える仲って悪くないと思う。


だから、謝らなきゃ。

そう思ってオシリスレッドまで来たけれど、やっぱりなかなか勇気が出せなくてウロウロする。
様子を窺ってレッド寮の食堂の立て付けの悪い戸を少し開けてそおっと中を覗き込むと、剣山くんとバッチリ目が合ってしまった。
こっちは心の準備がまだ出来ていないのに、剣山くんはこっちへどかどかやってきてがら、と扉を開いた。
そしてボクの前でいきなり頭を下げる。
「昨日は、悪かったざうるす」
ボクは吃驚してぽかっと口を開いて剣山くんの頭を見てた。
剣山くんが頭を上げると同時にはっと我に返る。
「・・・何でキミが謝るの」
昨日のことは絶対ボクの方が悪いと思う。
誰に聞いたってそういうと思う。
それなのになんで剣山くんが謝ってるのさ。
おかしいだろ、と言ったら剣山くんは少し困ったように言った。


「でも丸藤先輩があの人を大好きなのはわかったから・・悪かったどん」



別に剣山くんはお兄さんの悪口を言ったわけじゃない。
多分、ボクがめちゃくちゃ落ち込んでたから慰めてくれようと思ってあんな風に言ったんだと思う。
完全に八つ当たりなんだからボクが謝らなきゃ。
そう思うのに日頃アニキのことで口喧嘩ばっかりしてるせいか、どうにも言いづらい。
「ボ・・ボクの方こそ・・」
ごにょごにょと語尾が小さくなっていく。
ボクはどうしても最後まで言えなくて、そっぽを向いて口を尖らせた。
こんな態度じゃ、全然謝ってるようには見えないだろうな。
と、思ったら大きな手が伸びてきて、ボクの頭をかき混ぜた。
「頭撫でないでよっ」
自分の方が年下の癖に、ボクがチビだと思って、すぐこういう風にお子様扱いする。
そういうところは腹立つ。
むっかりきたので思いっきり手を叩いてやった。


「やっといつもの丸藤先輩っぽくなったどん」


ていっ、と頭の上の手を叩き落とすと、剣山くんはそう言って笑った。
手を叩かれたのに嬉しそうに。

・・・変なヤツ。


アニキに対してのことだとボクと張り合って喧嘩するくせに。
こういうところは妙に寛容で優しい。



剣山くんが笑うので、ボクもつられて笑った。


 



「喧嘩するほど仲がいい」ってよく言うけど、ボクはお兄さんとそんなに喧嘩した記憶がない。
お兄さんの方が正しいのはわかりきってたから。



でも今度はお兄さんとちゃんと喧嘩してみようかな。



そしたら、こんな風に笑えるかもしれない。

 

 

 

 

END

 





亮←翔で剣→翔って感じで(^^ゞ

ヘルカイザー後。
「翔を本気で怒らすと怖いって亮が言ってた」(吹雪談)
ってことでまあ喧嘩くらいはしたことあるんでしょうが
あの兄弟の感じから言ってそんなには本気の喧嘩ってなかったんじゃないかな、と。
此処はヘルカイザーに本気で怒ってる翔と決闘してもらいましょうってことで(^_^)
剣山くんはイイコだと思うの。
自分でも「兄貴肌」だっていうだけあって
つい面倒見ちゃうと思うの。
翔は根っからの弟気質だからな!甘えっこだし!
丸藤先輩はオレがいないと駄目だどん、くらい思ってるといい(^_^)

この話とちょっと繋がってる。

2006.01.10

 

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