■「リスペクト」(亮翔)■

■丸藤兄弟でかこう!10のお題■

ヘルカイザー後。翔と吹雪さん。





ボクに最初にデュエルを教えてくれたのは、お兄さんだった。
お兄さんのデュエルが、すごく楽しそうに見えて。
デュエルをするお兄さんが、とっても楽しそうに見えて。


だからボクもやってみたい、と思ったんだ。



「面白そうだね、お兄さん」
そう言ったら、お兄さんが翔もやってみるか?って言ってカードをくれて。
やり方も教えてくれて。
其処からボクのデュエルは始まったんだ。
いつでもお兄さんと一緒だった。


お兄さんと一緒にデュエルするのが楽しかった。

 

お兄さんも同じ気持ちでいてくれてるって思ってた。

 

 

***


 


アナウンサーが耳障りな声で強い、強いと絶賛していたけれど、ボクは其処に映っている決闘者が誰だかわからなかった。
見たことない、黒い服を着た人。
嘘だ。
本当はわかっていた。
確かにその人はとても強くて、圧倒的な力であっという間に対戦相手を捻じ伏せていた。
本当に、強い。
勝つためのデュエルをする人。
だけどボクは違う、違うって繰り返していた。
だって違う。
こんなの、違う。
こんなデュエルをする人、ボクは知らないもの。
いつだって淡々とデュエルをしているように見えたけど、本当はそうでないことをボクはちゃんと知っていた。

お兄さんはデュエルが楽しいんだ。

お兄さんはデュエルが好きなんだ。


だからボクもデュエルをしたいと思った、のに。


剣山くんに八つ当たりして、万丈目ルームを飛び出した。
お兄さんのこと、何も知らないくせに。
当たり前だ、剣山くんはお兄さんが卒業してから入学してきたんだもの。
いくら学園内で有名だって言っても、中等部からの持ち上がりじゃない、外部からの入学者である剣山くんがお兄さんの事を詳しく知ってるはずがない。
わかっていたのに、思いっきり八つ当たりしてしまった。
自己嫌悪で涙が出てくる。
誰も居ない、ラーの自分の部屋に戻る気にもなれなくて、海に足を向けた。
埠頭。
灯台のある此処でお兄さんが明日香さんと一緒に居るのを見かけた。
声をかけることも出来なくて、こっそり見てるだけだった。

・・・お兄さん。

ボクの目標の、最高のデュエリスト。

オベリスクブルーの白い制服を着て、此処に立っていた。
いつか並んで歩きたいと思っていた。

此処で海を見ていたお兄さんを思い出したら、また涙が出てきた。
悲しいんだか、悔しいんだか全然わからなかったけど、なかなか涙は止まらなかった。
其処に座り込んで散々泣いて。
どのくらい時間がたっただろう。
ようやく涙も止まって、ボクはぼんやり波を眺めてた。
少し、寒い。
「・・・くしゅん!」
「さすがにこの島も夜になると寒いよね」
ボクがくしゃみをするのを待っていたかのようなタイミングで声がした。
振り返ると、白い制服が闇に浮かんで見える。

白い、制服。

お兄さんの制服姿とよく似た長身の影は、もちろんお兄さんではなく。
「吹雪、さん」
名を呼ぶと吹雪さんはにこ、と笑った。
「皆心配してるよ?」
わかってる、けど。
ボクは吹雪さんから目を逸らした。
「・・・あんなの」

「・・・お兄さんじゃない・・・」


アレがお兄さんだなんてボクはどうしても認めたくなかった。
わかってるけど、認めたくなかった。
下を向くとまた涙が出そうになる。
「うん、確かに亮のデュエルじゃなかったね」
吹雪さんはあっさり言った。
「でも」

「亮だ」

はっとして顔を上げる。
吹雪さんはいつものように笑顔だったけど、目は笑っていなかった。
そうだ。
認めたくないけど、あれは確かにお兄さんだった。
わかってたけど、わかってるけど。
「何があったかはわからないけど」
吹雪さんは言った。
「人間、結局自分の力で立ち上がるしかないんだよね」
冷たいように聞こえる言葉だけれど、でも。
「でも」

「僕らでそれを手助けすることは出来ると思うんだ」

「ボクがボクのために必死でデュエルしてくれてる明日香を見て記憶を取り戻したようにね」
「・・・わかってるっス」
ボクは頷いた。


ボクにだって何か出来ることがあるはず。



「じゃあ戻ろうか」
ボクが涙を拭いたのを見て吹雪さんは少し笑ってそう言った。
泣いてるの見られて照れくさかったからボクも笑い返そうとしたけど、なんだか上手く笑えなかった。
無理しなくていいよ、というように、吹雪さんはボクの頭を撫でてくれる。

 


吹雪さんの手は少し冷たかったけれど、とても優しかった。




 

***



ボクに最初にデュエルを教えてくれたのは、お兄さんだった。
お兄さんのデュエルが、すごく楽しそうに見えて。
デュエルをするお兄さんが、とっても楽しそうに見えて。


お兄さんと一緒にデュエルするのが楽しかった。



だから



お兄さんもそう思ってくれてたはずだって思う。

ボクはお兄さんに会って訊かなきゃいけない。







ねえお兄さん、



 

今もデュエルは楽しい?





END

 



ヘルカイザー後の話ってことで。

 

お兄さんが今までの自分のデュエルを全否定してきたことと
お兄さんが勝ったのに全然嬉しそうじゃない翔が
もういろいろショックでした。
リスペクトを翔に教えてくれたのは
お兄さんなのにぃー。

吹雪さんの手が冷たかったのは

翔が泣いてる間待っててくれたからです。
吹雪さんは普段おちゃらけてるけど
本当は違うんだよって思ってる。
・・吹雪兄に夢見てる(^_^)


でも丸藤兄弟デュエルは楽しみです。
超期待してますっ。

この話とちょっと繋がってる。


■丸藤兄弟でかこう!10のお題■

丸藤兄弟同盟

2006.01.10

 

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