人魚姫がモチーフでしたが原形はとどめてません(笑)
この島に住んでいる人間は遊戯一人です。
遊戯は島にたくさんある果物や、島の周りの海でとれる魚を食べて暮らしていました。
泉もあり何も不自由なことはありません。
それにひとりきりというわけではありませんでした。
遊戯は魔法の力が強かったのです。
今では皆が忘れてしまった力です。
遊戯はその魔力で一枚のM&Wのカードからモンスターを実体化させて一緒に住んでいました。
遊戯を教育し、育ててくれた師とも親とも言えるモンスターです。
名前は“ブラックマジシャン”と言いました。
***
人のざわめきが聞こえます。
何か遊戯のことを話しているようです。
『バケモノ!!』
ひときわ高い声が遊戯を指しました。
遊戯ははっとして目を覚ましました。
たくさん汗をかいています。
遊戯が良く見る小さな頃の夢でした。
遊戯が初めて“ブラックマジシャン”を実体化させて見せた時のことだったと思います。
新しいお友達が出来て遊戯はとても嬉しかったのに誰も一緒に喜んでくれませんでした。
今ならそのわけもわかります。
大昔、皆が多かれ少なかれ魔法の力を持っていたときに大きな戦争があったのだそうです。
“ブラックマジシャン”がそう教えてくれました。
それはそれは酷い争いだったそうです。
そのあと魔法を使える者は減り、その力は忌むべきものとなりました。
『バケモノ!!』
高い女の人の声だけが耳に残っています。
それは遊戯を拒絶する声でした。
その時遊戯はとても小さかったのでよく覚えていないのですがあの声は『お母さん』なのではないかと思うのでした。
そうしてそう思うと遊戯の胸はさらに痛くなるのです。
遊戯は洞窟で寝起きしています。
ここが遊戯の家です。
遊戯は自分の寝ていた布団代わりの枯草の上に身体を起こしました。
外は嵐です。
ひどい風と雨の音がします。
このせいで嫌な夢を見てしまったのかもしれません。
遊戯は傍らに置いてある “ブラックマジシャン”のカードを手に取ろうとしてちょっと躊躇しました。
こんな泣きそうな顔をしていたら“ブラックマジシャン”が心配するに決まってます。
“ブラックマジシャン”は遊戯がこの島に来てからずっと一緒です。
小さかった遊戯にたくさんのことを教えてくれました。
だけど遊戯の魔力で実体化している“ブラックマジシャン”はこうやって遊戯が寝ていたり、魔法の力が弱っている時にはカードに戻ってしまうのです。
遊戯が風邪をひいたときなどはある程度体力が回復して魔力が戻るまで何日も一人で寝ていなければなりませんでした。
そんなとき遊戯は誰かそばにいてくれたら寂しくないのに、と思ってしまうのでした。
遊戯はゆっくり息を吐いてそれから“ブラックマジシャン”のカードを手に取りました。
なるべく明るい声で話し掛けます。
「ブラックマジシャン」
「はい、マスター」
“ブラックマジシャン”はすぐに実体化して遊戯の前に跪きました。
“ブラックマジシャン”は遊戯のことをマスターと呼ぶのです。
「・・・すごい雨だね」
「嵐が来ているようですね」
それから“ブラックマジシャン”はちょっと笑いました。
「怖いんですか?」
「怖くなんかないよっ」
そんな子供じゃないよ、と遊戯は口を尖らせます。
そういいながら遊戯は“ブラックマジシャン”に身体を寄せました。
眠りに着くまでの僅かな間“ブラックマジシャン”は黙って遊戯を抱きしめていてくれました。
遊戯が眠ってしまえばカードに戻ってしまうことはわかっていましたが。
海辺にはたくさんの木が落ちていました。
船の残骸です。
どうやら昨日の嵐で難破したようです。
「乗っていた人、大丈夫だったのかな」
遊戯は木片を拾いながら呟きました。
こういった嵐の後、この島に流されてくる人もいます。
“ブラックマジシャン”はそういう人達が好きではありませんでした。
遊戯の力を怖がって、遊戯を傷つけるからです。
だから“ブラックマジシャン”は今回は漂流者が流れ着かないことを心の中で祈りました。
「あ!!」
遊戯は持っていた木の破片を投げ捨てました。
人が倒れています。
きっとこの船に乗っていた人です。
遊戯は駆け寄ってそっと身体に触れてみました。
海水に濡れて冷えていますがまだ息があります。
「“ブラックマジシャン”!手伝って!!」
「はい」
遊戯は“ブラックマジシャン”と一緒にその人を自分の家まで運びました。
「なんかこの人、ボクに似てるね?」
「そうでしょうか」
「似てるよ」
確かに助けたその人は遊戯にちょっと似ていました。
髪型とか。
背は少し高いかもしれません。
「はやく目を覚まさないかなぁ」
遊戯は楽しそうです。
もしかしたら仲良くしてくれるかもしれない。
そんな期待をしてしまいます。
せめてこの島にいるときくらいはお話してくれるといいなぁ。
遊戯はそう思いました。
遊戯が考えていることが“ブラックマジシャン”には手にとるようにわかりました。
“ブラックマジシャン”は心の優しい遊戯が大好きです。
また傷ついて泣く遊戯など見たくありませんでした。
「マスター」
「何?」
だから“ブラックマジシャン”は遊戯に提案したのです。
「彼が目を覚ます前に私をカードに戻してください」
「え?」
眠っている彼を覗き込んでいた遊戯はびっくりして“ブラックマジシャン”に向き直りました。
「なに、言ってるのさ?」
遊戯は自分でもかなり硬い声を出しているのがわかりました。
“ブラックマジシャン”は自分ではカードに戻れないのです。
それはわかっています。
そして遊戯は“ブラックマジシャン”の気持ちもよくわかりました。
遊戯のことを心配してくれているのです。
「そんなことしないよ」
「でも」
“ブラックマジシャン”
の言葉を遊戯は遮りました。
「キミはボクの大切な友達だもの。そんなことしたくない」
遊戯だって“ブラックマジシャン”のことが大好きです。
“ブラックマジシャン”の気持ちはとても嬉しいです。
でも“ブラックマジシャン”は遊戯にとってとても大切な友達・・・それ以上の存在なのです。
それなのにお客さんに紹介しないなんて。
遊戯にはなんだかその方が自分が魔法の力を持っていることよりも忌むべきことのように感じられたのでした。