■天使の卵(海表)■

海馬瀬人宛に送られてきた卵から生まれたのは小さな天使だった・・!
癒し系天使遊戯ちゃんと瀬人さんのお話です。











昔々、と言ってもそう遠くはない昔、海馬瀬人という青年実業家がいました。
海馬コーポレーションという会社の社長をしています。
青年というには少々若いような気もしますが業界ではかなりのやり手として通っていました。
しかし瀬人は残念ながら多少性格に難がありました。
多少どころか多々だという噂もありましたが。
自分のわけのわからない趣味のために休日も社員を振り回したりします。
しかし社長としてはかなり優秀でした。
だけどそれを快く思わない人々もいたのです。
それは海馬コーポレーションの重役達でした。
先代社長の時代からの、瀬人曰く『頭の固い連中』は若い瀬人にこき使われるのがどうしても面白くなかったのです。
瀬人が頭脳明晰なのも気に入りませんでした。
重役達が何を言っても瀬人に軽くあしらわれてしまうのです。
性格の悪さは頭の良さとは関係ありませんが人のことを罵るためのボキャブラリーの豊富さは目を見張るほどでした。


 
***



「ヤツをこのまま放っておいていいものか」
重役達は瀬人を失脚させるため日々悪巧みをしていました。
「いい考えがある」
重役の一人が言いました。
「ヤツに天使の卵を送るのだ」
・・・はい?
他の重役達の頭上に大きなハテナマークが浮かびました。
そのハテナマークを消すべく発言した重役は説明を始めます。
天使の卵というのは最近巷で流行っている怪しげな通販商品です。
癒しがテーマだという噂です。
そんなものが何故あるのか深い突っ込みはナシです。
話が進みませんから。
「なるほど、その『天使の卵』は生まれて初めて見たものを親だと思うわけだね」
「それに瀬人が夢中になれば社に出てこなくなる」
「そうすれば追放する理由が出来る」
提案した重役の主張はそんな内容でしたがそこにいたその他の重役達にはそううまくいくとは思えませんでした。
あの人でなしがそんなものに現つをぬかすとは考えられません。
しかしあんまりその重役が推すのでとりあえず実行してみることにしたのです。
そういえば以前瀬人を抹殺しようとして作ったゲームに瀬人の弟のモクバそっくりな姫を入れることを提案したのも彼でした。
失敗するとしか思えない計画です。
だから効果のほどはまったく期待していなかったのですが、『出来ることからやってみよう』
そんな気分だったのです。
投げやりとも言いますが。


***

「兄サマ、なんかきてるよ」
瀬人の弟のモクバがダンボールの箱を持って書斎へやってきました。
休日だというのに瀬人はパソコンに向かって仕事をしています。
「誰からだ」
瀬人は画面から顔を上げずにモクバに尋ねました。
モクバは箱をひっくり返してみました。
でも何も書いてません。
「書いてない」
「捨てろ」
瀬人の答えは簡潔でした。
人非人と言われることもある瀬人でしたから恨んでいる人もたくさんいます。
度々訳のわからないものが送られてくることもありました。
「でも天使の卵って書いてあるよ」
「天使?」
瀬人は胡散臭いものをみたような顔になりました。
現実主義者で非ィ科学的なものを信じない性質だったからです。
「オレ見てみたいな、天使」
でもモクバはもう少し子供でした。
子供特有のきらきらした期待に満ちた目で見つめられて瀬人はため息をつきました。
人でなしで通っている瀬人でしたが唯一の肉親であるモクバにだけは甘かったのです。
「貸せ、オレが開ける」
モクバは自分で開けたがったのですがそれは譲りませんでした。
開けたとたんにどかん!などときたら大変です。
がさがさと包み紙を開けると中からダンボールの箱が出てきました。
耳をつけてみましたが時計の音などはしません。
中身は時限爆弾ではないようです。
箱を開けるとクッション材の中からデジタマ程度の大きさの卵が出てきました。
「わあ!」
モクバは嬉しそうに歓声をあげましたが瀬人は苦虫を噛み潰したような顔になりました。
こんなものどうしろっていうんでしょう。
少なくとも今のところ害は無さそうでしたが何の役にも立ちそうもありません。
ましてやとても食べられるものとも思えませんでした。
瀬人は無駄なものは嫌いでした。
今は燃えるゴミを捨てるのも有料なのです。
新手のイヤガラセかもしれない、と瀬人は考えましたがそれはあまりにもセコイ嫌がらせです。
そんなことを瀬人が考えている間にモクバは箱の中から取り扱い説明書を見つけ出しました。
「ベッドの中で一緒に寝て、温めるんだって」
「なんだそれは」
「そうすると孵るって」
ほら、とモクバは瀬人にその説明書を見せました。
確かにそんなことが書いてあります。
瀬人はこんな怪しい卵を金を払っても捨てたかったのですがモクバはすっかり一緒に寝るつもりです。
臑に傷持つ瀬人はどうしてもソレとモクバを一緒にしておくのが嫌でした。
何度も言うようですが弟だけは大事なのです。
でもモクバも卵を孵したいと言ってききません。
そこで瀬人は仕方なく自分のベッドでモクバと卵と川の字になって寝ることにしました。

 


続く





デジタマっていうのはデジモンの卵です。
デジモン見てない人にはわからないですね〜。スイマセン。


2001.11.11

 

 

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