今日は朝から会議がありました。
大事な会議です。
会議室に姿を現した瀬人を見て重役達はがっかりしました。
正確に言うとやっぱり、と言う気分です。
こんな大切な会議を瀬人がすっぽかすわけがありませんでした。
あんな卵にあの冷血漢の瀬人が夢中になるはずなどなかったのです。
孵す前に捨ててしまったに違いありません。
孵していたらあの愛らしさに勝てるわけがないのです。
強力にこの計画を推した重役はそう思いました。
好みではなかったのだろうか。
天使にもニーズにあわせていろいろな性格のものがあるようですから。
重役達の様子がおかしいのに瀬人は気がつきましたがあえて知らん顔をしました。
しかし会議の席でいつもよりさらに辛辣に扱き下ろしました。
***
会議が終わって社長室へ戻ってきた瀬人は部屋のドアを開けようとしたところで秘書にモクバが来た事を告げられました。
「モクバが?」
モクバは海馬コーポレーションの副社長ですがまだ小学生なので学業を優先させるようにしていました。
どうやらサボリを入れたようです。
しょうがないヤツだ。
瀬人は小言のひとつも言ってやるつもりで扉を開けました。
しかし部屋の中にモクバはいませんでした。
代わりに瀬人のディスクの上に鳥かごがありました。
モクバが持ってきたもののようです。
中には例の天使が入っていました。
天使は瀬人に気がついて籠の中から手を伸ばしました。
瀬人に触れようと必死です。
泣きそうな顔で両手を伸ばしてくるのです。
あまりがたがたと暴れたので鳥かごは机から落ちました。
「おいっ・・・!」
驚いた瀬人は慌てて籠を拾い上げました。
天使はぐったりとしています。
どこかぶつけたようです。
瀬人は天使を籠から出しました。
「おい・・」
手の上で動かない天使にそっと呼びかけてみます。
天使は身じろぐとようやく顔を上げました。
瀬人はホッとしました。
とりあえず大丈夫なようです。
軽く頭を振ってから天使は瀬人を見上げました。
それから瀬人の親指を両手で握ってようやく安心したようにふにゃ、と笑いました。
瀬人はどきっとしました。
何故だか自分でもよくわかりませんでした。
その時湧いた感情が何と言うのか瀬人には理解できなかったのです。
天使が何とも無くてホッとしたことさえどうしてだかわかりませんでした。
ただ天使の手の温かさはわかりました。
こんなに小さい手なのにその手のひらはとても温かいのです。
この必死でしがみ付いてくる手には覚えがありました。
昔施設にいた頃、モクバと2人で外に出るとモクバは瀬人の手を握って離しませんでした。
幸せそうな親子連れが通ったりすると特に。
海馬家に来てからは家の中でもそういう仕草を見せました。
モクバにとって瀬人がいる、と確認することが大切だったのです。
懐かしいような、不思議な気分です。
瀬人は手の中の天使をそっと胸のところまで持ってきて抱きしめてみました。
やはり天使は温かいのでした。
昔は瀬人もいろいろな感情を持っていました。
優しさとか
思いやりとか
人を好きになることを。
でも養子に貰われてきてからはそんなものは役に立たなかったのです。
大事な弟を守るためにはそんなものは却って邪魔でした。
だけどこうやって天使を抱きしめていると無くしたと思っていたそんなものが全部戻ってくるように思えるのでした。
「兄サマ」
「モクバ」
モクバがマグカップを持って立っていました。
下の食堂に行って天使のためにミルクを貰ってきたのです。
瀬人はモクバからカップを受け取りました。
それを机の上に置いてそれから天使をそのそばに降ろしました。
天使はカップと瀬人の顔を見比べていましたが瀬人が促すと嬉しそうにカップの縁に手を掛けて中のミルクを飲み始めました。
「あ、飲んだ!」
モクバも嬉しそうに言いました。
が、次の瞬間天使はマグカップの中に頭から突っ込んでしまいました。
身体を乗り出していたので手が滑ったようです。
大きなマグカップだったのも原因でした。
「・・・・やれやれ」
瀬人は羽をつまんでミルクで溺死しそうな天使を助けてやりました。
天使は咳き込んでいます。
やはりトロくさいヤツのようだ、と瀬人は思いました。
呆れたような口調です。
でも、瀬人はとても楽しい気分でした。
何だか嬉しそうだと見ていたモクバも思いました。
「ちょっとコイツを洗ってくる」
「うん」
びしょぬれの天使を抱えて瀬人は部屋を出ました。
モクバは机の上を拭きながらあの天使はもう家族になったのだと思いました。
それからの瀬人は残念ながら相変わらずでした。
人間そう簡単には変われません。
でも周囲からは少し人間が柔らかくなったかも、という評価を得ています。
それが毎日会社について来ている天使のおかげであることを皆が知っていました。
だから会社の人達はその天使を瀬人に送った人物に感謝しました。
でも当の重役達は瀬人がますます仕事をこなすようになって不満でした。
しかも瀬人には送ったのが自分達だとわかっているようです。
どんなつもりで送ったのか、聡明な瀬人にはそれもわかっているのでしょう。
前よりももっと激しい口での攻撃を喰らうようになってしまいました。
きっとあの天使はタイプじゃなかったんだ、としつこく主張する人もいましたがあまり取り合ってもらえませんでした。
そんなわけで一部の不幸な人々を除いてみな幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
END
お付き合いどうもでした。お馬鹿な趣味走り話でしたが書いていて楽しかったです。
そういえばこれ、この後、モクバちゃんが自分の天使を欲しがるので
もうひとつ卵を孵したら
そっちの天使は遊戯ちゃんに懐いちゃって・・という話を考えてました。
もちろん後から来た子は闇様です(^_^)
いつか書きたいっす。
大事な会議です。
会議室に姿を現した瀬人を見て重役達はがっかりしました。
正確に言うとやっぱり、と言う気分です。
こんな大切な会議を瀬人がすっぽかすわけがありませんでした。
あんな卵にあの冷血漢の瀬人が夢中になるはずなどなかったのです。
孵す前に捨ててしまったに違いありません。
孵していたらあの愛らしさに勝てるわけがないのです。
強力にこの計画を推した重役はそう思いました。
好みではなかったのだろうか。
天使にもニーズにあわせていろいろな性格のものがあるようですから。
重役達の様子がおかしいのに瀬人は気がつきましたがあえて知らん顔をしました。
しかし会議の席でいつもよりさらに辛辣に扱き下ろしました。
***
会議が終わって社長室へ戻ってきた瀬人は部屋のドアを開けようとしたところで秘書にモクバが来た事を告げられました。
「モクバが?」
モクバは海馬コーポレーションの副社長ですがまだ小学生なので学業を優先させるようにしていました。
どうやらサボリを入れたようです。
しょうがないヤツだ。
瀬人は小言のひとつも言ってやるつもりで扉を開けました。
しかし部屋の中にモクバはいませんでした。
代わりに瀬人のディスクの上に鳥かごがありました。
モクバが持ってきたもののようです。
中には例の天使が入っていました。
天使は瀬人に気がついて籠の中から手を伸ばしました。
瀬人に触れようと必死です。
泣きそうな顔で両手を伸ばしてくるのです。
あまりがたがたと暴れたので鳥かごは机から落ちました。
「おいっ・・・!」
驚いた瀬人は慌てて籠を拾い上げました。
天使はぐったりとしています。
どこかぶつけたようです。
瀬人は天使を籠から出しました。
「おい・・」
手の上で動かない天使にそっと呼びかけてみます。
天使は身じろぐとようやく顔を上げました。
瀬人はホッとしました。
とりあえず大丈夫なようです。
軽く頭を振ってから天使は瀬人を見上げました。
それから瀬人の親指を両手で握ってようやく安心したようにふにゃ、と笑いました。
瀬人はどきっとしました。
何故だか自分でもよくわかりませんでした。
その時湧いた感情が何と言うのか瀬人には理解できなかったのです。
天使が何とも無くてホッとしたことさえどうしてだかわかりませんでした。
ただ天使の手の温かさはわかりました。
こんなに小さい手なのにその手のひらはとても温かいのです。
この必死でしがみ付いてくる手には覚えがありました。
昔施設にいた頃、モクバと2人で外に出るとモクバは瀬人の手を握って離しませんでした。
幸せそうな親子連れが通ったりすると特に。
海馬家に来てからは家の中でもそういう仕草を見せました。
モクバにとって瀬人がいる、と確認することが大切だったのです。
懐かしいような、不思議な気分です。
瀬人は手の中の天使をそっと胸のところまで持ってきて抱きしめてみました。
やはり天使は温かいのでした。
昔は瀬人もいろいろな感情を持っていました。
優しさとか
思いやりとか
人を好きになることを。
でも養子に貰われてきてからはそんなものは役に立たなかったのです。
大事な弟を守るためにはそんなものは却って邪魔でした。
だけどこうやって天使を抱きしめていると無くしたと思っていたそんなものが全部戻ってくるように思えるのでした。
「兄サマ」
「モクバ」
モクバがマグカップを持って立っていました。
下の食堂に行って天使のためにミルクを貰ってきたのです。
瀬人はモクバからカップを受け取りました。
それを机の上に置いてそれから天使をそのそばに降ろしました。
天使はカップと瀬人の顔を見比べていましたが瀬人が促すと嬉しそうにカップの縁に手を掛けて中のミルクを飲み始めました。
「あ、飲んだ!」
モクバも嬉しそうに言いました。
が、次の瞬間天使はマグカップの中に頭から突っ込んでしまいました。
身体を乗り出していたので手が滑ったようです。
大きなマグカップだったのも原因でした。
「・・・・やれやれ」
瀬人は羽をつまんでミルクで溺死しそうな天使を助けてやりました。
天使は咳き込んでいます。
やはりトロくさいヤツのようだ、と瀬人は思いました。
呆れたような口調です。
でも、瀬人はとても楽しい気分でした。
何だか嬉しそうだと見ていたモクバも思いました。
「ちょっとコイツを洗ってくる」
「うん」
びしょぬれの天使を抱えて瀬人は部屋を出ました。
モクバは机の上を拭きながらあの天使はもう家族になったのだと思いました。
それからの瀬人は残念ながら相変わらずでした。
人間そう簡単には変われません。
でも周囲からは少し人間が柔らかくなったかも、という評価を得ています。
それが毎日会社について来ている天使のおかげであることを皆が知っていました。
だから会社の人達はその天使を瀬人に送った人物に感謝しました。
でも当の重役達は瀬人がますます仕事をこなすようになって不満でした。
しかも瀬人には送ったのが自分達だとわかっているようです。
どんなつもりで送ったのか、聡明な瀬人にはそれもわかっているのでしょう。
前よりももっと激しい口での攻撃を喰らうようになってしまいました。
きっとあの天使はタイプじゃなかったんだ、としつこく主張する人もいましたがあまり取り合ってもらえませんでした。
そんなわけで一部の不幸な人々を除いてみな幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
END
お付き合いどうもでした。お馬鹿な趣味走り話でしたが書いていて楽しかったです。
そういえばこれ、この後、モクバちゃんが自分の天使を欲しがるので
もうひとつ卵を孵したら
そっちの天使は遊戯ちゃんに懐いちゃって・・という話を考えてました。
もちろん後から来た子は闇様です(^_^)
いつか書きたいっす。