■天使の卵・聖夜(海表)■

海馬瀬人宛に送られてきた卵から生まれたのは小さな天使だった・・!
癒し系天使遊戯ちゃんと瀬人さんのお話です。
天使遊戯ちゃんと瀬人さんの馴れ初めは此処からどうぞ。









昔々、と言ってもそう遠くはない昔、海馬瀬人という青年実業家がいました。
海馬コーポレーションという会社の社長をしています。
しかし瀬人は残念ながら多少性格に難がありました。
少し前と比べれば格段に良くはなっているのですが。
一部の社員にはまだまだ評判が悪いのでした。
一部の社員。
そう、海馬コーポレーションの重役達です。
どうにかして憎たらしい瀬人を社長の座から引きずり落としたくて送り込んだ「天使の卵」でしたが重役達の思ったような効果は得られませんでした。
期待した効果とは“天使にメロメロになって仕事をしなくなった瀬人を社長職から解任する”でした。
しかし瀬人は仕事をしないどころかますますやるようになって、しかも天使を連れて出社してくるのです。
完璧に失敗でした。
しかも相変わらず瀬人の口の悪さは健在で、重役達が何を言っても瀬人に軽くあしらわれてしまうのです。
それでもその他の社員達には天使の存在はありがたいものなのでした。

 
***



夜中にふと瀬人は目を覚ましました。
自分の隣、布団の中でもぞもぞ動いているモノがあります。
遊戯だな、と瀬人は思いました。


遊戯、と言うのは天使の名前です。
瀬人が考えました。
名前を付けてやらなくては可哀相だと弟のモクバが主張したので紙に何個か候補の名前を書いて天使自身に選ばせたのです。
「どれがいい?」
デスクにその紙を置いて瀬人は天使に聞きました。
天使は瀬人の肩に乗っていましたが選べといわれたのがわかったのか、そこから紙のほうに飛びました。
前作を読んで下さっている方はご存知かもしれませんがこの天使は少々トロくさいところがあります。
一応立派な羽を持っていながら飛ぶのはヘタクソでした。
だから“飛んだ”とは言っても“落ちるのに時間がかかる”程度だったのです。
そして結局紙の上にぼてり、と落ちました。
そこに書いてあったのが「遊戯」でした。
海馬コーポレーションはいろいろな分野に手を伸ばしている会社ですがもともとメインはおもちゃやゲームです。
それで書いておいた候補でした。
まあそれでいいか、と瀬人は考えました。
「遊戯」
呼ぶと天使はとても嬉しそうな顔で笑いました。
誰にも言いませんが瀬人は実はこの笑顔が気に入っています。
それでこの名前で決定したのでした。


余談ですがその他に「青眼」とか「究極」とか言う候補も有ったのでわりとまともな名前に決まったことをモクバは喜びました。



遊戯にはちゃんと自分のベッドを与えてありました。
人形サイズのベッドです。
瀬人のベッドで一緒に寝ると小さい遊戯をうっかり下敷きにしてしまいそうで嫌だったからです。
でも遊戯はそのベッドがあまり好きではないようでした。
毎日瀬人の横に潜り込んできてしまうのです。
叱るとべそをかくので最近はもう放ってありました。
それにしてもなんだか今日はいつもと違います。
「遊戯・・・?」
瀬人は起き上がりました。

 

***


外は月が出ています。
電気ををつけない室内でも明るいほどです。
相手の顔も良く見えました。
「ゆう、ぎ・・・?」
そこにいたのは確かに遊戯でした。
だけど。
瀬人は自分の目を疑いました。
天使の遊戯は手のひらに乗るほどの大きさなのです。
それなのにそこにいたのは小学生ほどの大きさの遊戯でした。
背中には真っ白な翼がついています。
そして瀬人の呼びかけに遊戯はにっこりと笑ったのでした。
瀬人の好きな笑顔で。



だけどその笑顔はいつもと違ってどこか・・・艶を含んでいるように見えました。



遊戯は手を伸ばして瀬人にそっと触れました。
窓からの月明かりで遊戯の羽が妖しく光ります。
そして遊戯は瀬人の唇に自分のそれを合わせました。
してやらないと泣くので最近では習慣になってしまった「おはよう」や「おやすみ」のキスとは違います。
どちらも瀬人の頬に触れるだけのキスです。
瀬人は離れた遊戯の唇が言葉を紡いだように思いました。


せ・・と。


そう、自分を呼んだように。


月のあかりに照らされて微笑む遊戯はこの世のものではないようです。
幻として消えてしまいそうでした。
瀬人は誘われるようにゆっくり手を伸ばしました。
確かにそこに遊戯はいました。
柔らかい、髪。
柔らかい、肌。
それらはとても温かいのです。
このぬくもりこそ瀬人の欲していたものに違いないのでした。
瀬人は遊戯を抱きしめました。
それから遊戯の唇を塞ぎます。
遊戯は目を閉じてうっとりとそれを受け止めました。
「・・・遊戯」
瀬人の呼びかけに遊戯はまた微笑みました。


 


遊戯の羽がゆっくり舞ってベッドの上に落ちました。
それは蒼い光を受けて煌くのでした。 
  


***


「兄サマ、雪が降ってる〜!」
翌朝、モクバの声で瀬人は目を覚ましました。
瀬人の隣では遊戯が目を擦っています。
そして眠そうに欠伸をしました。
いつもの、小さな遊戯です。


夢、だったのでしょうか。



遊戯の唇も、肌の感触も・・・瀬人は覚えているのに。




遊戯が瀬人を見上げてにこりと笑いました。
それからシーツの波をよたよたと歩いてきて、瀬人に手を伸ばしました。
おはようのキスをねだっているのです。
瀬人は遊戯を抱き上げてやりました。
顔の近くまで持ち上げてやると遊戯は嬉しそうに瀬人の頬に口付けました。

なんだかいつもと違うような気がするのは昨夜の夢のせいでしょうか。


「ホワイトクリスマスだね!!」
遊戯は窓際ではしゃぐモクバの方に飛んで行きました。
相変わらず飛ぶのはあまり上手ではありません。
それでもモクバの頭の上まで飛んで行って一緒に外を見ています。

瀬人は出社の準備をするためベッドを降りました。
その瀬人の足元にひらり、と白いものが舞いました。
白い、羽です。
遊戯のものより大きいその羽は丁度昨日の夢の中の遊戯の羽と同じくらいの大きさでした。
瀬人は羽を手にとってしばらく眺めていましたが、やがてそれをベッドサイドのテーブルの上に置きました。
 


夢か、現実か、などということはもうどうでも良かったのです。
瀬人にとっての真実はこの天使が自分にとって大切な者である、と言うことでした。

聖夜の奇跡は瀬人にそれを教えてくれたのでした。

 

 

 

 

 

END





クリスマス企画で1日だけUPしていたものです。
実を言うとこの話、企画でUPしていたときには
えっちしーんが入っておりました。ウチにしては珍しく(笑)
UPする際、企画を見に来てくれた人に申し訳ないから其処は削ったのですが
今ではその元のファイルは壊れてしまって開かなくなっちゃったので
もうUPできません(^^ゞ


 

2002.01.21

 

 

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