■天使の卵・バナナとミント(海表)■

海馬瀬人宛に送られてきた卵から生まれたのは小さな天使だった・・!
癒し系天使遊戯ちゃんと瀬人さんのお話です。
天使遊戯ちゃんと瀬人さんの馴れ初めは此処からどうぞ。









昔々、と言ってもそう遠くはない昔、海馬瀬人という青年実業家がいました。
海馬コーポレーションという会社の社長をしています。
若いながら優秀な責任者です。
性格は問題ありですが。
瀬人は天使を一匹飼っていました。
飼っている、という言い方は正しくないかもしれません。
すでにこの天使は瀬人にとって唯一の肉親である弟のモクバと同じ、家族同然でしたから。
性格に難あり、と評される瀬人が最近少し変わってきたのもこの天使の影響かもしれません。
瀬人本人は認めないでしょうが。

しかし瀬人はこの天使のことで最近少し悩んでいることがありました。


天使の名は遊戯と言います。
遊戯は小鳥の雛と同じで生まれてすぐ見た瀬人を親だと思っていました。
親の手からしか食事を摂らないので必然的に会社にも連れて行くことになります。
昼食もそうですが瀬人は仕事が忙しく、帰りが深夜になることもありましたので。
もちろん仕事中は遊戯も大人しく待っています。
手のひらサイズの愛らしい天使は社内で密かに人気者でした。
特に数人いる社長秘書たちには可愛がられています。
瀬人が忙しい時には秘書室の方にいることもありました。
ある日瀬人が仕事が一段落ついて、休憩にしようと秘書にコーヒーを頼むと一緒にクッキーを差し出されました。
「なんだこれは」
瀬人は甘いものがあまり好きではありません。
秘書も当然そのことは知っているはずでした。
「社長にじゃありません。遊戯ちゃんにです」
秘書はすまして答えました。
遊戯は瀬人が与えたものしか食べませんから、とりあえず瀬人に出しただけのようです。
好きではなくても自分の分ではない、と言い切られるとなんだか少し面白くありませんが瀬人はクッキーを砕いてかけらを遊戯にやってみました。
今までは温めたミルクのみの食事でしたが、砂糖菓子なども食べることはわかっています。
与えたことはありませんでしたがどうやって世話をすればいいのかは調べてありました。
何を与えても良くて、何がダメなのか。
犬などはたまねぎを食べさせてはいけないそうです。
病気になるんだそうです。
大事な遊戯に何かあってからでは遅い、そう思って瀬人は熱心に調べたのでした。
なんだかそんな自分が恥ずかしいので内緒なのですがもちろんモクバは知っていました。
クッキーやチョコレートなども少量なら与えて大丈夫なはずです。
遊戯は初めて食べるクッキーをしげしげ眺めていましたがやがてその小さな口に運びました。
ゆっくり手の中のカケラを全部食べて。
それから遊戯はきらきらした目で瀬人を見上げました。
・・・気に入ったようです。
もっと欲しい!!
とその目に言われているような気がしましたが、・・・多分瀬人の思ったとおりなのでしょうが、瀬人は冷たく言いました。
「だめだ」
遊戯はしゅーんとしょげてしまいました。
瀬人だって本当はこんな顔をさせたくはありません。
だけど欲しがるからといって際限なく与えては遊戯のためになりません。
遊戯は瀬人の与えたものだけを食べるのです。
その辺の健康管理は瀬人がきちんとしてやらなくてはなりませんでした。

まあそれはいいんです。

先週のことです。
「つ・・」
朝食中にモクバが顔をしかめました。
「どうした?」
「なんか歯が痛い・・」
瀬人の問いかけにモクバはほっぺたを押さえながら答えました。
「酷くならないうちに歯医者に行け」
「うん・・」
たいていの子供がそうであるようにモクバもあまり歯医者が好きではないようです。
歯切れの悪い返答が返ってきました。
「早いうちなら痛くないはずだぞ」
そう言いながらふと瀬人の目が遊戯にとまりました。
そういえば。
遊戯の歯のことは考えていませんでした。
一応遊戯にも歯ブラシがあるのです。
瀬人の真似をしたがるので下請けの会社に人形が使うようなサイズの歯ブラシを作らせたのでした。
やはり遊戯にはかなり甘いようです。
とにかくそうして一緒に歯磨きをするはずでした。
過去形です。
瀬人は自分の歯磨き粉をほんのちょっぴり歯ブラシにつけてやりました。
しかしそのミントが強烈だったらしく、口を濯ごうと瀬人が歯磨き用に汲んであったコップに頭を突っ込んでコップと一緒に洗面台から落下し、床は水浸しにするわ、自分もびしょびしょになって半べそをかくわで散々な目にあったのでした。
それから遊戯の歯磨きはブラシに何もつけないし、そのうえいいかげんです。

歯磨き粉はつけなくてもそれほど問題は無いのですが、きちんと磨かないのは大問題です。
これでは虫歯になってしまうかもしれない。
瀬人は考えました。

虫歯になったら誰が治療してくれるのでしょう。
人間の歯医者が天使も見てくれるとは思えません。
第一、治療器具が遊戯の小さい可愛らしい口に入るわけがありません。
あんなものを口に入れられたら遊戯はどうなってしまうでしょう。
口いっぱいに頬張っても無理です。

これはもっとちゃんと歯磨きの習慣をつけるしかない、と瀬人は思いました。
しかし遊戯は最初の失敗を覚えていて、テキトーに磨いてオシマイにしてしまうのでした。


兄が困っているのを見かねてモクバが助け舟を出しました。
「兄サマ、今日午後から遊戯借りてってもいい?」


モクバは遊戯を歯医者に連れて行くつもりでした。
自分が行くからです。
もちろんモクバだって遊戯に嫌われるのは嫌です。
この可愛らしい生き物のことはモクバだって好きなんです。
歯医者なんて自分だって怖いのに、こんな小さな遊戯があのきゅぃぃ〜〜んっと言う音が恐くないはずがありません。
あんなところへ連れて行ったら遊戯はもうモクバの傍に来てくれなくなってしまうかもしれません。

そこで。
モクバは一計を案じました。
生贄を召喚することにしたのです。
この辺はさすが「この兄にしてこの弟あり」と言ったところでしょうか。

気の毒なスケープゴートは海馬コーポレーションの重役でした。

瀬人に怪しげな通販商品を送りつけた張本人です。
「最近、兄サマこの天使のことで悩んでるみたいなんだよね・・・」
モクバは重役をこっそり呼び出してそう言いました。
この重役以下数名は海馬瀬人のことをよく思ってはいませんでした。
瀬人を社長の座から引きずり落とすために卵のときに遊戯を送りつけたのです。
彼らの予定では遊戯の可愛らしさにメロメロになった瀬人が職務怠慢になったところを辞職に追い込む、ハズでした。
しかしまったく上手くいかなかったのです。
卵を送ったのが自分達だとバレていないと思っているあたりがモクバに言わせるともう「全然ダメ」なのですが。
「天使のこと、詳しいって聞いたんだけど」
「いや、あの、ホンの少しだけですよ」
バレていない、と思っている重役は突然モクバに天使のことで相談されてしどろもどろです。
「それでさ、ちょっと付き合って欲しいんだけど」
しかしこれはチャンスかもしれません。
重役はそう考えました。
上手くいったら瀬人の弱点がわかるかもしれないのです。
重役はモクバに付き合う約束をしてしまいました。

生贄準備完了です。

帰ってきた遊戯は真っ青な顔でぶるぶる震えていました。
モクバのところから相変わらずヘタクソな飛び方で瀬人のところまできてしっかりしがみ付きます。
「どうしたんだ」
「歯医者につれってったんだゼ」

モクバは詳しくは語りませんでした。
本当は自分ではなく連れて行った重役の歯の治療を遊戯に見せたのでした。
歯など治療する気のなかった重役は大騒ぎをし、遊戯を怯えさせました。
そしてあの機械の音も。
可哀想な気もしましたが、一応目的は達成しました。
この場合恐がらせてしまった遊戯が可哀想なのあって、重役はどうでもいいのです。
とにかく遊戯は歯磨きをしないとアソコに行くハメになる、と理解したのでした。


そうとう恐かったらしく遊戯はきちんと歯磨きをするようになりました。
ミントは嫌いなようなので瀬人は遊戯用に「子供歯磨きバナナ味」を用意してやりました。
甘いものは好きなのですからこれが気に入って歯磨きが習慣づくように、と思ったのでした。
やはり遊戯には激アマです。

瀬人本人は決して認めないでしょうが。



そうしてふたりは仲良く並んで歯磨きをするのでした。




ちなみに重役も会社に歯磨きセットを用意したという噂です。










END







子供はみがきって何故かバナナ味が多いですよね(^_^)
自分が頻繁に歯医者通いをするので
そういうネタでした(^_^)

 

2002.11.01

 

 

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