■チョコレート(闇表)■

闇表。
御伽編を読んでからどうぞ。













「遊戯」
朝出かけに遊戯は母親に呼び止められた。
玄関先で遊戯は靴を履きながら振り返る。
「なにママ」
「これ」
嬉しそうに差し出されたママお手製の巾着袋を覗くと可愛らしくラッピングされた包みが1、2、3、4、・・・5つ。
「なにコレ?」
「チョコレートよ。今日はバレンタインでしょ」
バレンタインならもちろん遊戯だってわかっている。
結構、どきどきしているんだから。
「お友達にママからだってあげてよ」
「え〜?!」
「いいじゃない。ママだってたまには遊戯のお友達にいいトコみせたいわ」
「なにそれ」
遊戯の抗議の呟きは聞こえなかったことにされた。
獏良くんってキレイな顔してて可愛いわよねぇ、なんて言っている。
「ええと、城之内くんと本田くんと獏良くんと御伽くんと・・・海馬くん?」
「そう」
海馬くん今日学校来るかなぁ?
忙しい会社社長が来るかどうか謎だったが、『海馬』の名前が出ただけで背後の気配が剣呑な雰囲気となったのでそれ以上は言わないことにする。


『相棒』
「ん?なに?」
『バレンタインってなんだ?』
「ええとね」
記憶がないというのもなかなか大変だ。
当然知っていると思っていることを知らなかったりする。
遊戯は<遊戯>のために自分の持っている知識を総動員する。
「何か、外国では違うみたいだけど・・・日本じゃ好きな人にチョコレートを送る日になってるよ」
『ふうん』
<遊戯>はそれなりに納得したようだ。
が。
『相棒は、くれないのか』
「は?」
『オレに』
遊戯は思わず口を開けたまま<遊戯>を見た。
冗談を言っているのかとも思ったが<遊戯>の目は大真面目だ。
・・・失敗した。
説明が足らなかったようだ。
遊戯は先ほどの説明にさらに解説を付け加える。
「普通は女の子が男の子にあげるものなんだよ」
その説明に<遊戯>は不満そうだ。
あきらかに不服そうなのはわかっていたが遊戯は学校に行くために家を出た。
そしてドアを開けたところでそこに最近仲良くなったクラスメートの姿を発見した。
「あれ、御伽くんおはよう。・・・どうしたの?」




「なに怒ってるのさ」
『別に』
「怒ってるじゃないか」
バスの中なので自然と声は小さくなるがそれでもひとりでブツブツ言っている遊戯に回りの何人かが振り向いた。
遊戯は慌ててさらに声を小さくする。
『・・・御伽からはチョコレートもらったから』
「あのチョコならキミにも食べさせてあげるってば」
身体は一緒じゃねぇか、と本田か城之内がいれば突っ込んでくれそうだが遊戯はこういうのは気持ちのモンダイだと思っている。
<遊戯>とは趣味も嗜好も違うところがあるので、同じモノを食べたとしても感じることは違うはずだ。
しかし。
『御伽のチョコなんかいらない』
ぷい、とそっぽを向かれてしまっては遊戯も困ってしまう。
チョコが欲しいわけではないことは遊戯にだってわかっている。
<遊戯>がチョコを欲しがった時に「女の子があげるもの」とか言っといて御伽からチョコレートを受け取ったことでへそを曲げてるようだ。
確かに遊戯も御伽からチョコを受け取るか否かほんの少しだけ迷った。
でもチョコレートには罪はないではないか。
遊戯はチョコが好きなのだ。
どうすればいいんだろ。
この状態は“怒っている”というよりすでに“拗ねて我がまま言ってる”って感じだ。
遊戯はちょっと考えて白旗を振ってみた。
「帰りに<もうひとりのボク>にボクがチョコ買ってあげるよ」
キミが大好きだよ、というのを言葉でなくモノで示すことにしたのだ。
いわゆる『モノで釣っている』状態である。
“バレンタイン”としてはちょっぴり不本意な気もしないではなかったが<遊戯>が嬉しそうにしたのでそれはこの際気にしないことにした。





かくして<遊戯>のみが御伽が欲しかったが無理だと思ってあきらめた遊戯からのチョコレートをゲットしたのである。



 



END



 



 

2001.02.14

 

 

 

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